毎月ちゃんと生理きてる?スポーツと生理にまつわる話。〜後編〜

2018.05.18

前回の記事は前編として、アスリートを取り巻く生理に関する問題点を明らかにし、今後の解決策について考えました。今回は後編として、ある水泳選手に起こった実話を基に、スポーツパフォーマンスと生理の関係について考えていきましょう。

 

「生理がこない=頑張っている証?!」は本当なのか。

日々厳しいトレーニングを継続しておこなっている女子アスリートは、身体を酷使した結果、体脂肪率が低く、低体重であること、そして運動量が多いことが精神的的かつ肉体的ストレスになって月経異常を起こしやすくなっています。

その結果、競技特性にもよりますが疲労骨折が頻繁化し、10代にして骨粗鬆症の診断を受けるケースや、過度な体重管理によって摂食障害になり満足のいく競技生活を送ることができないアスリートが増えています。

さらに、スポーツ界では誰に言われたわけではないのですが「生理がこなくなって一人前」という雰囲気があり、多くのアスリートが生理に関して誤った認識を持っていることがわかっています。

生理痛やむくみ、腰痛など生理がくるとさまざまな不快症状におそわれます。

この症状によって練習に集中できず、加えて生理が大会に重なり満足いく結果が残せなかった経験などから、「生理は悪」というようなイメージをもち、次第に上記のような誤った認識を持つアスリートが増えていっているのかもしれません。

 

スポーツパフォーマンスと生理の関係性

生理前は腹痛やむくみ、腰痛などに加えて気分の落ち込みやイライラなどがあり、高いパフォーマンスを発揮することが難しいと感じるアスリートが多いでしょう。

一方、生理が終わり、排卵に近付いていく時期は心身共にエネルギーに満ち溢れ、高いパフォーマンスを発揮しやすい時期だと思います。

中には、パフォーマンスの発揮に生理は関係ないというアスリートもいます。

アスリートがもともと我慢強く、痛みに強い傾向があり、生理痛を感じにくいという報告もありますが、それはアスリートが身体を酷使し続けた結果、さまざまなストレスにより卵巣機能が低下が関係している可能性があります。

機能が低下することによって排卵を伴わない無排卵月経(参考記事)が起こりますが、これは生理がきても生理痛等の症状が出にくいことが特徴に挙げられます。

したがってそのようなアスリートは、生理がパフォーマンスに左右されることが少ないと感じているのかもしれません。

または、生理前だとしても元から不快な症状が出にくいアスリートに関しては生理がパフォーマンスに影響されることはないでしょう。

以上のことから、女子アスリートのスポーツパフォーマンスと生理の関係については、競技特性や個々人によってことなるため、最も成績が出やすい時期というのは断言できません。しかし、少なからず生理がパフォーマンスや成績に左右されることはあるということです。

アスリートとしては生理があるのとないのとではどちらがよいかというと、、、、ないほうがいいのです。

 

生理がきてくれたおかげで全国3位に?!とある水泳選手の話。

では、アスリートと生理、スポーツパフォーマンスと生理の関係性がわかってきたところで、とある水泳選手に起きた、スポーツパフォーマンスと生理の関係がよくわかる実話を見ていきましょう。

主人公は、幼い頃から水泳を続け、小中高と全国大会入賞、さらにはオリンピックを目指して頑張っていたYさんです。

そのYさんが高校3年生最後のインターハイのときに経験した、今考えると不思議な出来事です。

 

小学校で生理がきていなかったのは自分だけ。

Yさんは3歳から水泳を始め、小学生のときからスイミングスクールの強化クラスで毎日練習漬けの日々を送っていました。

小さい頃から常に年上の人たちとトレーニングをしていたせいか、小学校高学年になっても身体は平均よりも小さく、さらに体脂肪も低く、周りは第二次性徴で女の子らしい体型になっていく中、Yさんはしょっちゅう男の子に間違われていました。

もちろん、日本の平均初経年齢になっても生理がくるはずもなく、、、

小学校卒業時は、同学年で初経を迎えていないのがYさんだけでした。

 

初経を迎えたのは15歳でした。

結局中学校入学後も生理がくる気配もなく、スイミングの練習はますます厳しくなっていくのでした。

この頃の練習は、月曜が休み、火曜から日曜の6日間で9回練習(火曜・木曜・土曜は1日2回練習)をこなす日々でした。

中学では10cmほど身長が伸びましたが、相変わらず男の子のような細い身体で、平均初経年齢から3年ほど経った15歳の夏、ようやく初経を迎えました。

しかし、スイミングの周りの先輩たちは、16〜17歳で初経を迎えることもあったので内心は「まだこなくてよかったのになぁ。」と思っていたのでした。

生理が始まってしばらくは周期が安定しないといわれているので、当時は1ヶ月でくる場合もあれば、2〜3ヶ月に1回くるということもありました。

 

まわりのコーチたちに太ったと言われて。

初経を迎え、高校生になったころから乳房などが発達しはじめ、ようやく第二次性徴のような身体の変化がみられるようになりました。

しかし、女性らしい身体に変化していくにつれて、知り合いのコーチたちからは試合で会うたびに「太った。」と言われるようになります。

「太ると速くならない。」「脂肪が水の抵抗になる。」などと言われることが増え、「生理なんてこなければいいのに。」と何度も思うようになりました。

高校生になると練習の厳しさは増し、頑張っていても体重が増えました。

朝は5時過ぎに家を出て朝練に行き、練習後はそのまま学校へ、放課後も家には帰らずそのままスイミングへと直行して夜の9時ごろまで泳いで帰宅するという生活を送っていました

タイムは伸びていましたが、毎日のお弁当は小さい容器に、主食の米もよるはほんの少ししか食べないようになど、体重が増えないように陸上トレーニングも増やしました。

 

高校最後の年は生理が2回しかきませんでした。

高校3年生になる水泳の成績がのちの進路に関わってくるので、そういうストレスは増したと思います。しかし水泳の成績は順調で、年を経るごとに全国大会での順位は上がっていきました。そして、このままだったら志望大学に推薦入学できる可能性もありました。

全ては夏の全国大会、インターハイにかかっていました。

夏休みは合宿に加え、週末は疲れが残る中インターハイ予選や地区大会に出場する日々でした。

8月の本番に向けて調整が進む中、母親に言われてあることに気がつきました。

 

「最後に生理がきたのっていつだっけ?そういえば最近きてなかったなぁ。」

 

当時はスマホもなければスマホアプリで簡単に生理日管理ができる時代ではなかったので、自身の記憶だけをたよりに振り返ると

「最後に生理があったのは去年の12月だ!合宿の途中で生理が来て、生理用品を買いに走ったんだった!」

 

すでに半年以上生理が止まっていました。

しかし私は元から周期が不安定でしたし、特に気にもとめておらず。

とにかく、夏休み終わっても生理が来なかったら病院へ行こうと母親と約束しました。

 

人生最大のスランプ訪れる。

夏の練習は順調に進み、このままだとインターハイも期待できるところまで調整が進んでいましたが、本番を1週間後に控えたころから身体に異変が起きました。

昨日までは普通に泳げていたのに、身体に力が入らず、体力も続かず、全身だるくてみるみるうちに泳げなくなったのです。

コーチ曰く「全く別人のようだ。」と。

50mを6〜8割程度の力で泳ぐ練習も、力が入らないので完泳できず。

普通ならあり得ない状況でした。

このときすでに本番まであと数日と迫っていて、「もう夏は終わった。進路もなにもないだろうな。」と絶望の気分を味わいました。

さすがに普段厳しいコーチもこの変わりように驚き、二人で話し合った結果、2日間完全休養しようということになりました。

焦る気持ちを抑えて、何もしない、水泳のことを考えない2日間を過ごしました。2日間何もしない生活、こんな経験は当時初めてでした。

 

スランプを抜け出すどころか、8ヶ月ぶりに生理がきた。

休養明け、このときすでに本番の2日前、スイミングで練習できる最後の日に”久しぶり”に水に入りました。通常の試合期ならばあり得ない状況です。

さらにこの時、まさかの生理が8ヶ月ぶりに来たのです。

「このタイミングでくるか!?」と思い、いよいよ本当に終わったと心が折れました。

「明日は本番前日、会場入りなのに、、、。しかも久しぶりで少し下腹部が痛い。」

 

生理を抱えたまま本番を迎えた最後のインターハイ、一体どうなる?!

重い気持ちと、半分の諦め気分で会場入りし、前日練習をおこないました。

めずらしく下腹部が重く痛く、周りも諦めムードが漂う中、この数日間ほとんど泳いでいないのにも関わらず、入水した瞬間にこれまでとは違う水の感覚がありました。

 

なぜかものすごく速く泳げる。

お腹は痛いけど、身体は軽い。どんどん前に進んで疲れない。

プールサイドから見ていたコーチは「数日前とは別人のようだ!」と驚きました。

全力で泳いでいないのにベストに近いタイムを練習で出し、何が起こっているのか自分でもわかりませんでした。

 

迎えた本番

高校生なりに人生のどん底を味わい、これ以上落ちることがないと思い、これまで感じていたプレッシャーがなくなった、半ば諦めムードなのがよかったのかもしれません。

まず予選、独特の緊張感の中、がんばっているのに全く疲れず100%の力ではなかったのですが自己ベストを4秒更新、全体の2位で決勝に進出したのです。

これにはコーチも家族も笑ってしまうくらいおどろきの変化でした。

決勝は持ちタイム的にもう少し順位は下がるだろうなと予想し、ここまできたならメダルが欲しいという思い、生理3日目という最悪のコンディション、いろいろな思いを持ちながら決勝を迎えました。

 

結果、予選よりさらに2秒タイムを上げ、3位に。

1日に6秒もタイムが上がったことは、中高時代では初めてでした。その初めての経験が最後のインターハイでした。

 

当時のことを振り返ってみると。

最後に有終の美を飾ることができ、進路も決まりホッとしたのですが、10年経った今でも、スランプからの大逆転劇を鮮明に思い出します。

あの経験によって水泳に対する考え方も変わったのですが、なにより最も学びになったのが「生理の大切さ」でした。

女性にとってたとえ辛くて憂鬱なことだとしても、生理は元気に生きるための必要不可欠なサイクルであることを、身をもって学びました。

インターハイ後は2ヶ月に1回くらいは生理がくるようになり、大学生になると毎月くるようになりました。

思い起こすと中高時代、大事には至らなかったもののしょっちゅう色々な部位を故障していました。

完全に女性ホルモンが低下し、身体がもろくなっていたのだと思います。

さらに、インターハイ前の不調は、貧血や生理前症候群を起こしていたのではないかと推測できます。

 

まとめ

2回にわたって、生理とスポーツの関係についてご紹介しました。

今回はある水泳選手の実話とともに、生理とスポーツパフォーマンスの関係について考えましたが、今もなお生理に対して誤った認識を持つアスリート(特に若年層)が多く存在するのが現状です。

アスリートのころは不妊や骨粗鬆症など、将来のことなんて考えませんから、生理が多少こなくても心配することがなく、むしろ楽でラッキーと思うでしょう。

Yさんは大学生になって生理周期が安定しましたが、後日談で、大学水泳部の学年で1〜2人は生理不順で病院に通い、薬を処方してもらっていたそうです。

薬は処方してもらえれば生理がくる(こさせる)ようになりますが、薬が切れる前に定期的に通院する必要があり、飲み忘れないように注意を払う必要があります。

とても大変ですよね。

 

スポーツ界に限らず、学校の現場、家庭における「月経教育」の強化について、今後早急に対策が必要であるといえます。

長い人生の中で、アスリートとして輝ける期間はほんの少しで、その後の人生の方が長いです。

周りの大人たちが正しい知識を教えたり、相談しやすい環境を作ったりという体制を整えない限り、日本のアスリートの健康問題や競技力は発展していかないと思います。

 

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