女性アスリートが抱える健康問題とは? 引退後の人生も見据えた身体づくりの大切さ

2020.01.07

2020年、東京オリンピック・パラリンピックイヤーがスタートしました。日本の女性アスリートの活躍が、各競技で期待されています。めざましい活躍の背後で、女性アスリートの三主徴(エネルギー不足・無月経・骨粗鬆症)をはじめとする女性アスリートの健康問題は、国際的にも問題となっており、女性アスリートが現役の間はもちろん、引退後も健康な生活を送るためにはどうしたらいいか、研究や議論が続けられています。

今回、「女性の健康・スポーツ医学」を専門とする産婦人科専門医で、日本スポーツ協会公認スポーツドクターでもある四季レディースクリニック院長の江夏亜希子先生にお話を伺いました。

 

―江夏先生は、ご自身も大学時代まで水泳に打ち込まれ、日本水泳ドクター会議のメンバーとして水泳日本代表のチームドクターを務めていらっしゃったそうですね。今日は、女性アスリートの健康問題についてお伺いします。女性で競技に打ち込んでいる人は、厳しい食事制限から、生理(以下、月経)が止まる人も多いと聞きます。

 

江夏先生(以下、江夏):私はもともと水泳のチームドクターでしたので、水泳の世界でお話しますと、水泳選手で月経が止まる人はあまりいませんでした。これには競技特性が関係していると言われています。浮力や水中での保温のために、ある程度の体脂肪が必要である水泳では、あまり厳しい体重制限がありません。逆に痩せていないといけないとか、痩せていることが美しいとされて体型の維持が難しい競技では、月経が止まる人が多いと言われています。

 

―厳しい体重制限を課せられる競技の選手ほど、生理が止まる危険があるのですね。

 

江夏:どこのラインで月経が止まるのか、その目安が分かってきました。体格指数(BMI;Body Mass Index)というものがあり、体重(㎏)/身長(m)/身長(m)で計算され、一般女性では18.5以上25未満を標準としていますが、BMIが17.5を下回ると、半分の人の月経が止まるとされています1)。以前から、アメリカスポーツ医学会ではBMIが18.5を下回らないように、そして月経が止まってしまったら、18.5を目安に体重を戻すことという指針が出ていました。日本でも、そのスポーツで求められている体型の基準を決めたり、大会出場に向けた制限を打ち出したりするなど、過度な体重制限に規制をかけないといけないんじゃないかなと感じています。

水泳などは昔から、「しっかり食べろ」と言われてきた競技です。他方、食べるのを控えて体重を落とすことが求められたり、痩せている方が競技力が伸びるとされてきた競技もあります。このように、傾向が2つに分かれているように感じますが、本来、どの競技でも消費したエネルギー量に見合ったエネルギーを摂取しなければ、十分なパフォーマンスを発揮できないはずなのです。

女性アスリートの無月経

―女性アスリートの健康問題として知られる「女性アスリートの三主徴(エネルギー不足・無月経・骨粗鬆症)」とは、どういった問題なのでしょうか。

 

江夏:少し歴史的な背景をお話しますと、女性アスリートの三主徴は、2007年までは「摂食障害・無月経・骨粗鬆症」とされていました。陸上ではマラソンなどの長距離種目、器械体操、新体操、フィギュアスケート、水泳だと飛込などの「審美系」と言われる種目では、厳しい食事制限を課せられていることが多いです。 柔道やレスリングなど体重階級制の種目では、体重を減らすだけでなく、増やすことが必要になることがあります。競技成績に対するプレッシャーもあるなかで、食べること自体がネガティブなことだと捉えられてしまいがちで、摂食障害を発症するリスクがとても高い状態です。そして実際、摂食障害を発症する女性アスリートが数多く認められてきたことから、1993年にアメリカスポーツ医学会で発表された「女性アスリートの三主徴」は当初、「摂食障害」となっていたのです。しかし、摂食障害になってからではもう遅いというか、治療がすごく難しく、治るまでにすごく時間がかかる。場合によっては命にも関わる問題になります。

そこで、2007年以降は「摂食障害」が「エネルギー不足」となり、消費エネルギーに見合ったエネルギーが摂取されているかどうか、注意を呼びかける方向に変わってきています。「エネルギー不足・無月経・骨粗鬆症」は、全てつながっている問題なんです。エネルギーが足りないと、女性ホルモンが分泌されず月経が止まってしまう。女性ホルモンには骨を丈夫にする作用がありますから、骨にもよくない。そして、食事量が十分でなければ、骨を作るのに重要なカルシウムなどの栄養分も不足しがちです。そして体重が軽いと骨を十分に鍛えることができない。それで骨粗鬆症が起こりやすくなってしまうのです。

 

―なるほど、エネルギー不足から無月経と骨粗鬆症が起こってくるのですね。

 

江夏:そうなんです。しかし、骨粗鬆症になると必ず疲労骨折を起こすとか、疲労骨折があった人に必ず骨粗鬆症がある、ということではありません。骨量がある程度保たれていても、瞬発的に圧力がかかるような競技では、その部位が骨折することはあります。一方で、マラソンなど長時間、身体全体を酷使するような競技で骨粗鬆症があれば、軽い力でも継続して負荷がかかることで折れてしまいます。マラソン選手の疲労骨折は、脚だけでなく恥骨や肋骨など、思わぬ部位が折れていることがあるんですよ。そういう人は、骨粗鬆症という文字通りスカスカな状態なんです。

そのほかにも、競技に打ち込むのが早すぎることによるリスクもあります。人間の骨密度は10代後半でピークを迎えた後、なだらかに落ちていきます。骨の形成に女性ホルモンは大きな影響がありますから、10代の女性で月経が止まってしまうと、本来骨が育つのに重要な時期に女性ホルモンが働かないことから、最大骨量が十分に得られない恐れがあるんです。その時期に、骨が十分に育っていない状態で運動をしすぎてしまうと、疲労骨折が起こってしまうんですね。疲労骨折の好発時期が16〜17歳1)というのもわかってきており、やはり早い時期に激しい運動をやりすぎることの弊害は大きいのです。

若い女性アスリートの低体重と無月経

―選手を数年間の競技成績のためだけで見るのではなく、一人の女性の人生として、健康問題を含めて見ていく必要がありますね。

 

江夏:そうですね。昔は、特に女性は、高校や大学を出たら引退というのが当たり前だったのですが、最近はそうではなく、競技を長く続ける人が増えてきています。そうなると、学生時代に疲労骨折を起こしてしまうと競技を続けられないなどという問題も出てきました。長い目で選手の人生を捉えることが必要になってきたのです。一般の女性でも閉経後は、女性ホルモンの低下によって骨粗鬆症が起こりやすく、それによる骨折、そして寝たきりになるリスクが高いとされているのに、若いときに十分骨量を得られなかった女性アスリートが将来どうなるのかは想像できますよね。

 

―アスリートのなかには、3歳〜5歳の幼いうちから競技を始めている人もいますし、新体操やフィギアスケートなど10代後半が競技生活のピークになっているようなスポーツもありますよね。女性としての身体を作っていく時期が危険にさらされているのではないかと心配になりますね。

 

江夏:従来、女子では「成長スパート」と呼ばれる11歳頃に身長が急激に伸び、その後に初潮がくることはわかっていたのですが、最近出たデータでは、その前にまず十分に体重が増えて、そのあと身長が伸びて初潮が来る2)ということがわかってきました。3歳くらいから体操などで体を鍛え、絞りすぎている子たちは、体重が増えないから身長も伸びない。そのため、初潮が来るのが遅いと言われています。

結果として、小さい体のまま戦わなければならないという問題があります。世界で戦えるような身長まで伸ばしてあげられてないのでは?と。そう考えると、小さいうちから鍛えることは、エリート養成の面で良いように見えますが、一方で、選手を長い目で見たときに能力を伸ばしきれているのか、さらに一生の健康を見据えてサポートできているかというと疑わしいです。また、日本では中学・高校の各3年間で指導者が代わることが多いですが、自分が担当している間の成績しか見ていない指導者もいるのではという懸念もあります。その後の成績は頭打ちで、学生時代で「使い捨て」みたいになっている事例は少なくないのではないでしょうか。

だからこそ、BMIで規制をかける必要があると考えています。高校野球の世界では、いわゆる野球肘などの予防として投球制限が課される方向に動いています。また、海外、特にヨーロッパでは、ファッションモデルの世界でも、BMIが低すぎる極端に痩せすぎたモデルは活動を禁止するという強制力のある規制ができています。生まれつき痩せている体質の人からは反対意見も出ているそうですが、短絡的に「痩せていることが美しい」という風潮を作るのはよくない、という意思の表れでしょう。このような対策が、女性アスリートの三主徴の予防のためにも必要だと考えています。

 

参考文献:

1)東京大学医学部産婦人科発行 「Health Manegement for Female Athletes Ver.3

2)松田貴雄ら 「女性アスリートの身長増加量は成長ピーク直前の年間体重増加量と相関する―日本人女性アスリートの高身長化に向けての考察―」 日本臨床スポーツ医学会誌 26(1),121-127,2018

 

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四季レディースクリニック院長

1970年宮崎県都城市生まれ。1996年に鳥取大学卒業後、鳥取大学産婦人科に入局。鳥取大学医学部附属病院および関連病院の勤務を経て、2004年に上京。東京大学大学院身体教育学研究科にてスポーツ・健康医学を学ぶ傍ら、女性外来での診療経験を積み、2010年4月に東京都中央区に四季レディースクリニックを開院。日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医。