なぜ日本ではナプキン派よりタンポン派が少ないのか?

2019.02.08

欧米ではタンポンの使用率は7割〜8割といわれていますが、日本でタンポンを常用している人は約2割とまだまだ少数派。

ここ数年間で、経血が体外に出ないという快適さを理由に、若い女性たちの間でタンポン使用率は上昇傾向にありますが、それでもいまだ半数以下。

10代ではたった1割程度だといわれています。

なぜ日本ではタンポンがなかなか普及しないのでしょうか?

今回は、その理由を「タンポンの歴史」の流れから考えていきます。

膣に詰め物をする習慣は平安時代から

おどろくことに、タンポンのように膣に詰め物をする習慣は、平安時代のころからあったそうです。

しかし、この時代の目的は「経血の処理」ではなく「避妊」。

したがって、この方法を最も利用したのは遊女(男性に性的サービスをする女性)たちでした。

経血処理を目的として膣に詰め物をする習慣が広まり始めたのは、もっとあとの時代になります。

筆者の推測ですが、膣に詰め物をする習慣自体は長い歴史がありながら、それが経血の処理として一般的に広く浸透しなかった理由に「膣に詰め物をする人=遊女」という偏見が少なからずあったからではないかと思います。

 

和製タンポンの第一号「さんぽん」

生理の血の処理を目的とした和製タンポン「さんぽん」が製品化して、この世に出回ったのは1938年(昭和13)でした。

今から約80年前のことです。

使い捨てタイプのナプキンが登場したのが1961年(昭和36)だったので、歴史的にはタンポンが先に製品化したことがわかります。

それよりも前の1915年(大正4)には、「ニシタンポン」という商品名の脱脂綿が発売されていましたが、これは脱脂綿をかためた、玉状のものに過ぎませんでした。

「さんぽん」は現在のタンポンと同じような砲弾型で、経血を約20cc吸収できたとのことですが、当時あんぱんが5銭で買えたのに対してさんぽんは45銭と、人々が手軽に買えるような値段ではなかったようです。

そしてその後すぐ、戦争の物資不足の影響を受けて市場から消えてしまいました。

 

戦時中の女性たちの生理の処理方法

戦時中はあらゆる物資不足に陥り、脱脂綿や布、紙などは入手しにくい状況だったため、女性たちは毎月くる生理の処理方法に頭を悩ませました。

布を当てていた女性もいましたが、戦時中の激しい労働や防空演習にかり出されていた当時の女性たちにとって、経血を含んだボロ布を処理するのが苦痛でしかたなかったといいます。

そのような背景から、戦争中は膣に詰め物をして経血を吸収する「タンポン式の処置」を身につけ、戦後も同様の処置法を継続した女性が多かったそうです。

しかしこの自己流タンポンは不衛生で細菌感染の原因になりやすいということから、戦後はタンポン式の処置法の弊害を説く記事がたびたび掲載されるようになります。

1948年(昭和23)、当時の厚生省は誤ったタンポンの使用方法による身体への害をなくすために、タンポンを医療器具(現在の「一般医療機器」)に指定し、厳しい衛生基準を設けました。

一般医療機器とは?

日本では、治療や予防を目的とし、人の構造や機能に影響を及ぼすものは薬事法で「医療機器」と定義されいます。

この定義づけにより、不完全な製品によるリスクや、間違った使い方によるリスクを避けられるようになっているのです。

医療機器は「一般医療機器」「管理医療機器」「高度管理医療機器」の3つに分類されますが、タンポンは安全性のリスクがより小さいと判断され、現在は「一般医療機器」に指定されています。

一方で、MRIや電子内視鏡などの、人の命や健康に影響を与えるおそれがあるものは「管理医療機器」、ペースメーカーや透析機器など、人の命や健康に”重大”な影響を与えるおそれがあるものは「高度管理医療機器」に分類されています。

参考:「健康のためのディスポーザブルな衛生材料〜生理用タンポン・家庭用創傷パッド〜」/日本医療機器連合会

 

タンポンに対する誤った認識と偏見

タンポンが再び注目されるようになったのは1964年(昭和39)。

東京オリンピックにあやかって体操や水泳が思いっきりできることをキャッチコピーに、さまざまなタンポンが一斉に売り出されました。

1964年(昭和39)にはスティックタイプのタンポン「セロポン」が登場し、1968年(昭和43)にはアメリカの「タンパックスタンポン」の輸入販売を開始。同じころに「アンネタンポンo.b.」も発売されました。

タンポンの登場によって女性たちはこれまでよりもアクティブに過ごせるようになりましたが、その反面「タンポンの使用によって処女膜が破れる」「処女膜が破れるとお嫁に行けなくなる」などの、ネガティブで誤った認識が広がり、それを信じる女性たちが大勢いました。

当時、「未婚女性はタンポンを使うな」というのが常識だったそうです。

1979年(昭和54)8月、『現代性教育研究』に掲載された記事では、「タンポンの使用に抵抗をもつ教師は、タンポンを使っている生徒たちを『はみ出し者』とみているようだと報告している」という一文がみられるように、性教育をおこなう教師側にも、タンポンの使用に対する偏見があったことがうかがえます。

 

タンポンショック事件とタンポン市場の衰退

翌年の1980年(昭和55年)に、アメリカで「Rely(リライ)」というタンポンの使用者に高熱、下痢、吐き気、発疹といったショック症状があらわれ、少なくとも数十人の死者が出るといういわゆる「タンポンショック事件」が起きました。

タンポンショックは、現在でいうトキシックショック症候群(TSS)のことです。

TSSは、黄色ブドウ球菌の産生する毒素が原因で起こる急性疾患を指し、発症した人の約半分は合成繊維で作られているタンポンの使用によるものといわれていますが、さまざまな方法で男性にも女性にも、老若男女だれでも発症する可能性がある感染症でもあります。

この事件後、タンポンの吸収力とTSSの発症率に相関があることが分かり、アメリカでは吸収力の高いレーヨン素材のタンポンの製造を中止、するとアメリカでのTSS発症数は減少したそうです。

日本では事件をきっかけにタンポンの使用率や評判は落ちてしまいましたが、アメリカではタンポン使用率が落ちず、現在まで高い使用率が維持されています。

今日の日本においてタンポン使用率が低いのは、タンポンに対するネガティブなイメージが拭い去れなかった歴史的な背景が影響しているだけでなく、「タンポンショック事件」などの影響によって、世間的にタンポンの評判が落ちていったことも理由にあげられるのではないでしょうか。

さらには、ナプキンの開発が進み、手頃な価格で質の良いナプキンが市場に多く出回っているため、タンポンを必要とする人が増えないということも考えられます。

参考文献:田中ひかる著『生理用品の社会史 タブーから一大ビジネスへ』,ミネルヴァ書房(2013年)

 

タンポンを使用すると処女膜が破れる?!

日本でタンポンが普及しなかった理由のひとつには、古くから「タンポンを使うと処女膜が破れる」「処女膜が破れる=処女ではない」という誤った認識やネガティブなイメージが広がっていたことも影響しています。

おどろくことに、現在でもその誤解は根強く残っていて、それを理由にタンポンを使うことに抵抗がある人もいるようです。

ではタンポンを使用すると本当に処女膜は破れるのか、そもそも処女膜とはどういうものなのでしょうか。

 

私たちは処女膜というと薄い膜を想像してしまいますが、実際は膣の入り口近くにある伸縮性のある「ひだ」のことをを指します。

処女膜の中央には2cmほどの穴があるのが一般的で、形状や厚さには個人差があります。

薄くてやわらかい人、厚くてかたい人、一部分にしかない人、ごくまれに完全にふさがっている人など、さまざま。

処女膜が何のためにあるのかは、実はいまだにはっきりとは解明されていません。

一般的に、初めてのセックスでは処女膜が破れて痛みや出血があるものと思われがちですよね。

しかし、必ずしもそうではありません。

処女膜にはもともとも穴が開いていることや、形状に個人差があることから、生まれつき破れたような状態になっている人もいます。

さらに、セックスの経験がなくても、激しいスポーツをすることで処女膜が破れることもありますが、もし破れたとしても膣が十分にうるおっていれば、痛みや出血がないともいわれています。

参考:「女性のカラダのしくみ」/インテグロ

 

処女膜と呼ばれる「ひだ」の中央には2cmほどの穴があることは先ほど説明しました。

したがって、直径1cmほどのタンポンを挿入しても処女膜が破れるということは考えにくく、「タンポンは正しく使えば年齢関係なく使用ができ、処女でも使用できる」と説明書に記載している製品もあります。

人によってはタンポンを使用することで膜が破れることもありますが、処女膜は伸縮性があるため、挿入時に破れずにひだが伸び広がれば、出血せず痛みがないともいわれています。

また、「初めてのセックスは痛いもの、出血するもの」という説がありますが、これに関しても出血しない人はいます。

出血の有無だけで、初めてじゃなかったのではないかと疑うのは論外です。

 

日本でタンポンの使用率が低い理由〜まとめ〜

今回は、日本ではタンポンの使用率が低い理由をタンポンの歴史からみてきましたが、そこからわかった主な理由は以下のとおりです。

① 膣に詰め物をする習慣は平安時代からあったが当時は「避妊」が目的だったため、主に遊女と呼ばれる人たちが行なっていた。

②ナプキンよりもタンポンの方が先に製品化されたが、当時は手軽に購入できるような値段ではなかった。

③ 戦時中に過酷な労働を強いられていた女性たちは、膣に布などを詰める自己流タンポンの方法を身につけたが、細菌感染を引き起こすことが多く、戦後にはタンポンの弊害説がひろがった。

④東京オリンピックを機にタンポンが再び製品として登場するも、「タンポンを使うと処女膜が破れる」「処女膜が破れるとお嫁に行けなくなる」などの誤った認識がひろがり、タンポンを使用する女性に対して偏見を持つ人が多かった。その偏見は教育の現場でも広まっていた。

⑤アメリカでタンポン使用によるトキシックショック症候群(TSS)が発症したため、タンポンへの不安が大きくなった。

⑥日本製のナプキンは種類が豊富かつ高性能、高品質であること。

 

現在でもタンポンに対する偏見があり、タンポンを使うと処女膜が破れるなどの誤った認識を持っている人は少なくないと思います。

もし、それが理由でタンポンの使用をためらっているのであれば、今後は心配する必要はありません。

説明書通りに正しく使用すれば、快適に過ごすことができますよ。

私たちは目的に合わせてナプキン・タンポン・生理カップサニタリーショーツなどのさまざまな生理用品を使い分けることができる、恵まれた時代に生きています。

新しいものを試すときは誰でも最初は勇気がいりますが、それを乗り越えることによってより自由で快適な生理期間を過ごすことができるかもしれません。

関連記事:ナプキン派が初めてタンポンを使うときの痛くないタンポンの使い方と注意点

参考文献:田中ひかる著『生理用品の社会史 タブーから一大ビジネスへ』,ミネルヴァ書房(2013年)

インテグロ株式会社 アソシエイトディレクター・生理アドバイザー

1990年東京都生まれ。筑波大学大学院人間総合科学研究科体育学専攻、博士前期課程修了(研究分野:体育史スポーツ人類学)。在学中、カンボジアにてスポーツ指導や小学校体育科教育の普及にも従事。

3歳から水泳を始め、高校3年時に全国高校総体400m個人メドレー第3位。約18年間の競技生活を経て引退後、競泳選手として生理と向き合ってきた経験と、途上国生活で満足する生理用品に出会えず苦労した経験から、生理について他者と情報共有することや、生理用品の重要性を感じました。そして生理カップとの出会いをきっかけに、女性がより快適で自由に過ごせるように、そして分野問わず国内外でアクティブに活躍する女性たちをサポートしたいと思うようになりました。日本ではまだまだタブーとされている生理や女性の体についてもっとオープンに話せるような環境をつくっていきたいです。

・愛用の生理カップ:スーパージェニーのスモール(ブルー)

・愛用のサニタリーショーツ :ステインフリーのビキニ(ピンクドッツ)