災害時の生理ケアについて考えておこう

※ 2023年11月16日更新

災害が起きたときの生理用品の備えはできていますか?

「災害大国ニッポン」と言われるように、日本は世界的に見ても自然災害が多い国です。

災害が発生した際、国や自治体からの支援物資はすぐに届くわけではなく、早くても3日程度といわれています。

今回は、生理中に被災したり、避難所で生理になってしまった場合の生理ケアの備えや対策についてご紹介します。

災害時の生理ケアの問題

災害時の生理ケアに関わる問題には以下のようなものがあげられます。

  • 支援物資の配られる数に限りがあり、生理用品が足りなくなる。

  • トイレが使えない。使えたとしても混雑する場合には、自分のタイミングで生理用品を交換することができない。

  • 洋服や下着が不足している場合、経血で汚してしまっても替えがない。

  • 水が止まったら洗濯ができず、汚れた下着を洗えない。

  • お風呂やシャワーがなくて不衛生になる。臭いが気になる。

  • 避難所はプライバシーが確保しづらく、生理のことを相談しにくい。

  • 生理痛など、体調が悪くても十分に休めない。痛み止めの薬がない。

  • 使用済みの生理用品の捨て場所に困る。

    生理用品の備え方のポイント

    ただでさえ不安で、他人の目がある避難生活のなかで生理のケアをしなければいけないことを考えると、いつも以上に心配事が増えそうですよね。

    想定していなかったことが起こることも珍しくはないと思います。

    支援物資がうまく行き渡らなかったり、避難生活が長期化することで用意していた生理用品が足りなくなってしまう可能性もあります。

    災害時の生理用品の備え方のポイント、それは「可能な限りさまざまな場面を想定し、それに合わせた複数の選択肢を備えておく」ことです。

    災害時に備えて、自宅や非常持ち出し袋の中に生理用品を用意している方もいると思いますが、どんな場面でも困らないように準備ができているか、ぜひ確認してみましょう。

    筆者が非常持ち出し袋に入れている生理ケアアイテム

    筆者は毎年少なくとも1回は、自宅の備蓄スペースと、非常持ち出し袋の中身を確認、見直ししています。

    自宅で待機できる場合と、非常持ち出し袋を持って避難所に行かなければいけない場合の2パターンを想定し、備えるのがポイントです。

    食料や衣類などは、過ごす環境によって必要なもの、使えるものが少しずつ異なりますが、生理用品に関してはどちらのパターンも同じものを用意しています。

    災害時は慣れない環境での生活になるため、できるだけ普段から使い慣れているものや、好きなものを揃えておくことも重要視しています。

    筆者が実際に用意している生理ケアアイテムはこちらです。

    ① 月経カップ

    月経カップは耐久性のある医療用シリコーン製のため、洗ってくり返し使えるアイテムです。生理用品の残数を気にすることなく、これ1つで生理期間を過ごすことできます。

    月経カップの主なメリットは3つ。

    1. 荷物が減る: 小さくて幅も取らないため、防災バッグの中に入れてもかさばらない。

    2. 長時間使用できる: タンポン約3本分〜約4本分の経血を受け止めることができるため、トイレに行く回数を減らせる。(最長で12時間連続使用が可能。)

    3. ゴミが出ない: 洗って繰り返し使えるものなので、ゴミが出ない。臭いも気にならない。

    月経カップは自宅待機や、避難所生活が長期化するときに、特に力を発揮しそうです。

    1点注意してほしいことは、月経カップは、なかには初回からスムーズに使える人もいますが、ほとんどの人が、使い方に慣れるまでに生理1〜3クールほどの時間が必要なことです。

    いざというときにサッと使えるよう、早めに使い始めて、慣れておくことをおすすめします。

    防災袋に月経カップを入れよう

    ② ウェットティッシュ

    ウェットティッシュや清浄綿は、月経カップの挿入や取り出しの際にカップを拭いたり、手指を清潔にするのに役立ちます。

    ウェットティッシュは他にもいろいろな場面で使用できるので、防災グッズの必需品ですよね。筆者はアルコールタイプとノンアルコールタイプのウェットティッシュを1パックずつ用意しています。カップを扱う際は、デリケートゾーンへの刺激がないようにノンアルコールタイプのものを使います。

    一方で、月経カップは1日1回程度、水で洗う必要があります。

    そのため、水が確保しにくい状況では、ウェットティッシュで代用したり、500mlの水(ペットボトル)を1本追加して、備えておくといいと思います。

    筆者の実験によると、200mlもあればカップを十分洗うことができました。

    ③ ナプキン・タンポン・おりものシート

    「水が足りない」「トイレが使えない」「ケガや体調不良などで体を自由に動かせない」などの状況では、ナプキンやタンポンが使いやすいかもしれません。

    災害のレベルによっては、避難所にテントをはり、その中で生理用品を交換しなければいけないことも想定されます。

    そのため、いつでもどこでも使えるナプキンやタンポンも、1クール分程度は用意しておくとよさそうです。

    ナプキンはケガをした際の止血にも活用できますし、生理中でなくても下着に付けておくだけで、下着を洗濯する回数を減らすことができます。

    経血量が減る生理の後半や、おりものが増えてくる時期には、おりものシートの方が使いやすいかもしれません。

    筆者はナプキンを普通サイズと夜用サイズを2〜3日分、タンポンを3本、おりものシートを5〜10枚ほど用意しています。

    ④ 吸水ショーツ

    普段用の下着以外にも、生理のときに使える吸水ショーツ「エヴァウェア」も用意しています。

    エヴァウェアは20ml程度の経血をカバーできるため、もし万一月経カップから経血があふれて漏れたり、急に生理が始まったりしたときに活躍すると思います。

    生理がこなければ普通の下着としても着用できるため、1枚あると安心です。

    ただし吸水ショーツも水が十分に確保できず、洗濯ができない状況では使いにくいかもしれません。

    他の生理用品のバックアップとして使ったり、就寝中や量の多いときにピンポイントで使ったりするのがよさそうです。

    筆者はエヴァウェアのやさしい肌触りが好きで、普段から着用することもあります。

    そのため、不安が増える災害時の、「癒しアイテム」にもなりそうだなと考えています。

    災害時の吸水ショーツの活用

    ⑤ 低容量ピル

    低容量ピルは、計画的に飲み続けることで生理を止めたり、生理期間をずらしたりすることができます。これもまた、災害時の対処法としては有効です。

    生理期間をコントロールする以外にも、経血量を減らしたり、生理痛などを緩和させたりすることができるため、避難生活が長期化した場合にも、生理の問題を気にせず過ごせます。

    ただし、ピルを使うには医師に処方してもらう必要があり、スケジュール通りに服用しなければいけません。

    希望する場合には、災害が起こる前から病院へ行き、相談、準備をしておきましょう。

    普段から飲んでいる方は、災害用に1シート余分に持っておくといいですね。

    ⑥ 大きめの黒のポリ袋

    ナプキンやタンポン、ウェットティッシュなど、生理ケアの際に出るゴミを捨てるときに使えます。災害時は、ゴミも簡単に捨てられなくなります。

    黒などの濃い色で、においが出にくい厚めの袋があると、生理用品のゴミだけでなく、簡易トイレ用にも使えます。また、避難所や車中などで着替えなければいけないときや、雨具として、被って使うこともできますし、敷物としても使うことができます。

    筆者も50〜100枚ほどは備えています。

    最近では消臭効果のあるビニール袋もあるので、生理のにおいが気になる場合には、専用のものを持っているとより安心できると思います。

    ⑦ 鎮痛剤

    生理痛がある人は、普段飲み慣れている鎮痛剤を持っておくのも大切です。

    筆者は頭痛にもなりやすいので、いつも服用する頻度を考えて、3〜5回分ほどの量を用意しています。

    「ちょっとコンビニで買ってこよう」というのができないことを想像すると、普段から服用している人にとっては必需品ですよね。

    おまけ:持ち歩き用の防災ポーチ

    災害が起きるのは、家にいるときとは限りません。

    移動中、外出中など、慣れていない土地で起こることも十分に考えられます。

    持ち歩き用の防災ポーチとは、外出時に災害が発生したときに備えて、必要最低限の防災グッズを入れて携帯する、「持ち歩く防災袋」のことです。

    筆者は、少なくとも一晩は過ごせるくらいの、必要最低限のものを用意してポーチに詰めています。

    女性の持ち歩き用防災ポーチ

    例えば、羊かんなどの非常食のほか、顔や体を拭く用の圧縮タオル、アルミブランケット、除菌ウェットティッシュ、ミニライトなどです。

    半日程度であれば、取り出しや洗浄が不要だと考え、月経カップ(12時間装着可能)もポーチに入れています。

    下着を取り替えられないことも想像し、おりものシートも2〜3枚は必ず用意しています。

    女性の持ち歩き用防災グッズ

    筆者は縦10センチ、横15センチくらいのポーチであれば持ち歩けると思い、その中に入るものを厳選しました。

    今後改善する点をあげるとすると、ポーチの耐久性です。

    現在はビニール素材のものを使用しているので水には強いかもしれませんが、熱や衝撃によって破れる可能性はあります。素材の見直しが必要ですね。

    みなさんも、普段の自分の行動範囲、行動パターンを考えながら、自分にとってのベストなポーチを作ってみてはいかがでしょうか。

    被災者だけではない災害現場における生理の問題

    実は、災害現場で生理の問題に直面するのは被災者だけではありません。

    いつも被災地の最前線で被災者の救助のために活動し、現場の様子をよく知る消防士の方(男性)から、生理に苦労する女性隊員の話を伺う機会があったので、ご紹介します。

    「地震や豪雨の現場では必ずと言っていいほどに、被災者向けの生理用品が足りなくなりますが、その問題はなかなか解決されません。個人の備えも重要ですけど、行政などの対応の遅さにも疑問を抱いています。救助隊員は現場によっては泥だらけになったり、ずぶ濡れになったりもします。しかし、基本的にトイレもお風呂も被災者が優先のため、自由に入れません。生理中の女性隊員は想像するだけでも本当に大変だろうと思います。救助に当たる隊員以外だと、被害の様子を伝える女性記者の方々も同様に、生理に苦労しています。彼女たちは現場の決定的瞬間をおさえることが最優先ですよね。トイレに行っていたらその瞬間を逃してしまうかもしれません。たとえ生理中でも同じ。経血で洋服が汚れてもなお現場に立ち続ける姿をみると、とても複雑な気持ちになります。しかし災害現場では珍しいことではありません。そのため、月経カップのような生理用品は災害現場で大いに役立つのではないかと思いました。」

    筆者は、この話を伺って初めて、被災者の救助にあたる女性の消防士、警察官、自衛隊員、医師や看護師、さらには、現場の様子を伝える報道記者やカメラマンもまた、生理の問題を抱えていることに気がつきました。

    災害時に生理の問題を抱えた女性

    生理中に被災した経験から伝えたいこと

    筆者は茨城県に住んでいたころに東日本大震災を経験しました。

    ちょうど生理中で特に経血量が多い、3日目でした。

    外出の予定があったのですが、目的地が家から近かったため「短時間で済むだろ」と、生理用品を何も持たずに出かけてしまい、その出先で地震が起きたのです。

    茨城県は最大震度6強を記録し、沿岸部では津波の被害もありましたが、東北に比べると被害が少なかったため報道がほとんどされず、援助不足や物資不足が問題となりました。

    筆者の住む地域でも水道やガスが停止し、余震がおさまるまでは外の広い場所に避難していたためトイレにも行けませんでした。

    非常用トイレも長蛇の列で、いつ自分の番が来るかわかりません。

    しかし、もしトイレに行けたとしても、生理用品を持っていなかったため、何も対処ができなかったと思います。

    余震の不安があるなか、4〜5時間はみんなと毛布にくるまりながら身を寄せ合って過ごしました。

    付けっ放しのナプキンから、今にも経血が漏れ出しそうな不快感とヒヤヒヤ感は忘れられません。

    幸いにも夜用のナプキンをしていたため洋服を汚すほどの大惨事にはなりませんでしたが、この経験から生理用品の備えの重要性を実感しました。

    まとめ

    今回は、生理中に被災したり、避難所で生理になってしまった場合の生理ケアの問題と、避難生活が長期化した場合の備えや対策についてご紹介しました。

    ここでの「備え」というのは物を揃えて準備しておくだけではなく、事前に生理ケアの選択肢を増やしておくということも含まれます。

    月経カップや吸水ショーツ、ピルなどは、日本ではまだ新しい生理ケアアイテムですが、いざというとき、自分の身を守る選択肢のひとつとして取り入れてみてはいかがでしょうか。

    「天災は忘れたころにやってくる」といわれますが、最近では、忘れる前に次から次へと新たな災害が発生してるのが現状です。

    ぜひこの機会に、災害時の生理ケアについて考え、必要な準備をしておきましょう。

    インテグロでは、防災関連の研修会などの女性に必要な備蓄品に関する講師派遣も行っています。過去のセミナー開催例はこちらをご覧ください。ご希望の方は、ぜひお気軽にご相談いただければと思います。

    お問い合わせ先:info@integro.jp

     

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