『生理ちゃん』に共感がとまらない!生理に「ありがとう」と言いたくなるマンガがあります。
2018.09.25月経カップ歴1年になる、ライターの梅つま子です。
『生理ちゃん』という漫画をご存知でしょうか。
筆者は、40歳を前にして、何か女性の身体に関する知識を深めるための本を探してみようかな…。とアマゾンを見ていたところ、この本を見つけました。
評価の高い、『生理ちゃん』
なんと、アマゾンレビューでは、星が5つとも光ってます…!(2018年9月21日現在)
レビューを読むと、
「生理がちょっとだけ好きになれる」
「年齢を問わず、いま男が読むべき一冊としてお勧めしたい」
「共感しまくりで、くすっと笑える場面もあれば少し感動しちゃう場面もあり」
などなどの高評価。
いったい、どんな本なのだろう?
どきどきしながら、読んでみることにしました。
以下、ネタばれありで進めますので、まだ読んでいらっしゃらない方はご注意くださいね。
『生理ちゃん』は、こんな本
本書には、10編の短編マンガが収録されています。
女子高生からおばあちゃんまで、「生理ちゃん」とお付き合いのある、合計10人の女性たちが登場します。(最後に収録された描き下ろし作品に出てくるのは、「PMSちゃん」です!)
目次
主婦と生理ちゃん
ライターと生理ちゃん
コンビニ店員と生理ちゃん
スーパーヒロインと生理ちゃん
町娘と生理ちゃん
女子高生と生理ちゃん
適齢期と生理ちゃん
カフェ店員と生理ちゃん
おばあちゃんと生理ちゃん
描き下ろしPMSちゃん
月経カップ愛好家としては見過ごせないのが、「おばあちゃんと生理ちゃん」。
これは、日本初の生理用ナプキンを開発した坂井泰子さんの実話を基にした作品になっています。
日本で生理ナプキンが誕生したのは、1961年のことだそうです。
今では、ナプキンだけでなく、タンポンもあるし、さらには月経カップもあるわけで。
選択肢は格段に増え、生理痛を緩和する薬も手に入りやすくなりました。
生理の過ごし方は、生理ナプキンが生まれた約50年前と比べただけでも、格段に楽になっているはず。
先人たちの苦労があって、今の私たちがあることを教えてくれます。
(さらに「町娘と生理ちゃん」では、江戸時代の町娘目線で経験する生理の話も出てきます。)
「生理ちゃん」は、こんなキャラクター
生理ちゃんは、生理を擬人化したキャラクターで、月に1回、女性のもとにやってきます。
「来ちゃった」、「どーも、生理です」、「よっ」という気楽さで。
そして容赦なく「ドゴッ」と腹部に、激痛の生理パンチ。
さらには、「あと顔をむくませておくね」、「今回はゲームソフトの中身とパッケージをバラバラにしてイライラさせちゃお」、「それじゃあおやすみ」と眠り薬を突きつけてくるという、最悪としか言いようがない暴挙まで。
なんとも理不尽で、とにかく容赦ないんです。
それなのに、生理ちゃんを憎めないのは、生理ちゃんがとにかく女の子のことを心配しているから。
裏表紙に描かれた生理ちゃん解剖図によると、生理ちゃんの目は常に女の子を見守っており、生理ちゃんの頭は女の子からの相談に悩んでいて、生理ちゃんの腕は、パンチも繰り出すけれど、抱きしめもする腕なんです。
共感ポイントが盛りだくさん
本書に登場するどの女性も、毎日を一生懸命生きてます。
毎月やってくる生理ちゃんを、うっとうしく思いながらも、あきらめと一緒に受け入れて、付き合っています。
彼氏のできないコンビニ店員のりほちゃんは、
「まいどまいど意味もなく わたしなんで生理ちゃんが来るのかも分からなくなったよ …もう来なくていいよ わたし一生独りだし」とつぶやき。
結婚して7年、なかなか子どもができないあけみさんは、
「最近はあきらめるのもいいと思ってるの」と愚痴り。
独り言のような悟りのような、つらいことばを、女性たちは傷つきながら言います。
生理ちゃんはこうした女性たちにも、やっぱり容赦なく生理パンチをお見舞いするのですが、生理ちゃんはこうした悩みを突き放すかに見えつつ、実は思慮深く付き合っていくのです。
「ライターと生理ちゃん」には、こんなくだりがあります。
「女性は生理があるから大変だよね」と男性の編集者に言われた生理ちゃんは、こういうやりとりをします。
生理ちゃん「大変なのを生理を理由にできないのが大変なんですよ」
男性編集者「生理ちゃんは毎月迷惑がられているのに来なきゃいけないの ツラくないの?」
生理ちゃん「…ツラいですけど いつか 全部ひっくるめてよかったと思ってもらえるんじゃないかと」
生理ちゃんは憎まれ役でもありつつ、女性たちの、よき理解者なのです。
誰もが持っている、生理に翻弄される経験
『生理ちゃん』という作品が受け入れられる背景には、「このつらさを誰かに言いたい」、「共感し合いたい」と思っている女性の声が聞こえるようです。
腰痛や頭痛、痛みで立てないほどなのに休めなかったり、出血がひどくて服を汚してしまったり…。
かつて、筆者にもありました。
まだ20代前半、留学中のこと。
初めて現地でできた女友達の部屋に遊びに行って、泊まったその晩が生理2日目で、起きたらシーツに血が!
どうしよう、どう説明しよう、シーツどこで洗えばいいんだろう…。
なぜよりによって今日が生理なんだろう、と呪ったものでした。
結局、しどろもどろの英語で状況を説明して、大丈夫?そんなのいいから、気にしないで、と言ってもらって、シーツも洗わせてもらって…。
やっぱり女性同士ってありがたい、と思ったのでした。
今思い出しても、あのときの冷や汗がよみがえります。
こんな記憶は自分にもあるし、その後、自分だけでなく友人にもやっぱり同じようなことがあったりして、経験値が増えてきて。
ちょっとした大変なことも「そんなことはよくある」、とお互いドンマイ!と励ましながら乗り越えていきました。
自分の身体なんてまったく自分の思い通りにならないことを、女性は10歳になるかならないかのうちから、月に1回、強制的に経験させられて生きていくのですよね。
生理軽い人vs生理重い人、そして男vs女は分かり合えるのか?
生理ちゃんのキャラに笑いながら、さらりと読める漫画なのですが、どの作品にも、自分の想像がつかなかったところに光を当てて「はっ」と気づかせてくれるような、鋭さがあります。
女性同士だからこそ分かり合えることがたくさんある一方で、女性同士での分かりあえなさがあることをこの作品は教えてくれます。
「スーパーヒロインと生理ちゃん」で登場するのは、生理が重い女の子と軽い女の子。
生理が軽い女子高生のめぐるちゃんは、重い生理で苦しんでいる後輩のとなりちゃんに対して「ツライのはわかるけど せめてできることはやってくれないと甘えているんじゃないかと思っちゃうよ」、「私だってツライけどがんばってるよ?最終的にはやる気なんじゃない?」と、厳しく叱責してしまいます。
めぐるちゃんは自分の生理が軽いがために、生理の重いとなりちゃんのしんどさに理解が及ばないのです。
同じような状況は、妊娠後のつわりの有無などでもありそうです。
つわりが軽い女性は、出産ぎりぎりまでがんばれるけれど、つわりが重くて、産休まで働けずに退職を余儀なくされる女性の話も聞きます。
生理中でも妊娠中でも働ける健康な体があることは、それ自体ありがたいことではありつつも、「がんばれる方が普通」が基準になってしまったら、どうなるか。
つらい人の感じ方にも目を向けていかないと、戦えるだけの体を持った一部の健康な人しか生き残れません。
分かり合えなさを基盤とした世界で、本当にいいのか?作者の小山健さんの問いかけのように感じました。
そして、「分かり合えなさ」と言えば、その際たるものと言えそうな、男女間の分かり合えなさ。
「女子高生と生理ちゃん」は、男女入れ替わりの物語。
男子高校生のゆきちくんは、同じ部活のひかるちゃんと入れ替わって初めて、生理の大変さを知ります。それと同時にひかるちゃんも、ゆきちくんの体に入ることになり、今までゆきちくんが一緒にいた「性欲くん」が、どれほどの力を秘めたものかを初めて思い知ることになるのです。
2人が知恵を貸しあいながら、生理ちゃんと性欲くんとの付き合い方を「どうしてるか」を教えあうことで、お互いの距離を近づけていく描き方がとても優しい。
それにより、この作品は「女性の生理は大変だ!」と伝えるだけの作品から一歩進み、男性も男性で大変なんだと、押し付けがましくない形で添えられ、深みが与えられています。
自分の体を大切にしてほしい、という生理ちゃんからのメッセージを受け取りたい
生理ちゃんは、女性の体を痛烈にパンチしながら、矛盾するようですが、自分の体を大切にしてほしい、というメッセージを同時に発しているように見えました。
生理ちゃんは、もっと自由に、体に正直になりなさい、と教えてくれているのかもしれません。
「もっと緩みなさい」、「もっと自分の体と心をを楽にしなさい」と願いながら、生理ちゃんはパンチしてくるように思えてきました。
私たちも、生理ちゃんを憎まずに、うとまずにすむならもっといい。
「いつか 全部ひっくるめてよかったと思ってもらえるんじゃないか」と願っている生理ちゃんに答えて、いつか「ありがとう」と言えるように。
にやっと笑って、オムニバス映画のようにほろりとする作品でした。
生理中、体を楽にして、温かいお茶でも飲みながらの読書に最適な一冊、いかがでしょうか。
参考文献
小山健(2018)『生理ちゃん』KADOKAWA