女性ホルモンは増やせばいいってものじゃない!
2020.04.24女性ホルモンと言えば、女性の体、心、肌をコントロールすることで知られていますが、だからといって増やせばいいってものでもありません。
女性ホルモンの働きや驚くべき機能、ホルモンバランスの整え方などについてお伝えします。
文/増田美加(女性医療ジャーナリスト)
体、心、肌の不調は女性ホルモンが影響
女性ホルモン。
今や知らない人はいないくらいメジャーになりましたが、10数年前、ホルモンというと、「ホルモン焼きのこと?」と、焼き肉屋をイメージする人がたくさんいたのです。
女性ホルモンと言えば、女性の体、心、肌をコントロールすることで知られていますが、女性ホルモンは、どこから分泌されているか知っていますか? 以前は、「子宮です!」と答える方がいましたが、さすがに今はいないと思います。
女性ホルモンは“卵巣”から分泌されています。
卵巣から出ている女性ホルモンは、2種類。“エストロゲン(卵胞ホルモン)“と“プロゲステロン(黄体ホルモン)”です。
このふたつの女性ホルモンは、妊娠、出産の準備のためにはもちろんのこと、全身を巡って、毎月の生理や体調に大きく影響しています。
生理痛、生理不順、頭痛、肩こり、疲れ、冷え、むくみなどの体の不調。イライラ、落ち込み、不眠、うつっぽいなどの心の不調。吹き出物、肌荒れ、乾燥といった肌の不調も、女性ホルモンの影響であることが少なくありません。
逆に、肌や髪にうるおいや艶を与えたり、体調がよく活動的になって頭が冴え、幸福感に満たされてポジティブに物事を考えられるのも、女性ホルモンのお陰です。
真逆の働きをするふたつの女性ホルモン
どうして、この相対するような出来事が、体の中で起こるのでしょうか?
女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンが、それぞれ異なる働きをしていることが、その理由です。
エストロゲンは、女性らしさをつくるホルモン。女性らしい体つきをつくり、卵胞(卵子の元)を育て、子宮内膜を厚くしたりします。自律神経、感情の働き、皮膚、粘膜、骨、関節、筋肉、内臓、脳の働きにも、大きくかかわっています。
一方、プロゲステロンは、妊娠を助けるホルモン。子宮内膜を妊娠しやすく整え、妊娠しなければ子宮内をお掃除します。
一般的には、エストロゲンとプロゲステロンは、真逆の働きをしているホルモンなのです。
エストロゲンは攻めのホルモン、恋の成就なるか!
このエストロゲンとプロゲステロンの分泌量は、ひと月の中で大きく変化します。この女性ホルモンのリズムから、ひと月を“生理の時期”“卵胞期”“排卵期”“黄体期”と4つに分けています。
“生理の時期”はエストロゲン、プロゲステロンともに分泌が少なくなります。しかし、生理が終わるころから排卵までの“卵胞期”には、エストロゲンの分泌が最高量に。
その次は“排卵期”で、卵巣から卵子が飛び出す時期。そのあとにやってくるのが“黄体期”。プロゲステロンが多く分泌される生理前のPMS(月経前症候群)の時期です。
エストロゲンの分泌が多い卵胞期から排卵期までは、ひと月のなかで体も心も絶好調、お肌もキレイ。
この時期に仕事でもプライベートでも大事な予定を入れると、体調がいいのでなかなかうまくいきます。デートをするのもこの時期がおすすめ。エストロゲンは、これから受精を目ざすので、いわゆる“攻め”のホルモン。恋が成就するかもしれません(笑)。
エストロゲンを増やせばいいってものじゃない
誤解してはいけないのは、女性ホルモンを単純にアップすればいいわけではないことです。エストロゲンを増やせば、体も心も肌もいつも調子がいいということにはなりません。エストロゲンを増やし過ぎれば、乳がん、子宮体がん、卵巣がんなどのリスクも上がります。
あくまでもバランスが大事。多すぎても少なすぎてもダメ。バランスが崩れると、さまざまな不調が起こります。ふたつの女性ホルモンがバランスよく、ひと月のリズムにあわせて分泌されていることが大切なのです。
驚くべきホルモンのフィードバック機能
エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)というふたつの女性ホルモンは、卵巣から分泌されています。
その卵巣に「ホルモンを出して!」と指令を出しているのは、脳の視床下部というところです。
脳の視床下部は、その下にある下垂体というところに命令を出します。すると下垂体は、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体化ホルモン(LH)というふたつの性腺刺激ホルモンを分泌します。このふたつが卵巣に働いて、エストロゲンとプロゲステロンを分泌させているのです。
このホルモンの指令の流れには、フィードバック機構があります。
エストロゲンやプロゲステロンの分泌量を脳が見張っていて、卵巣からホルモンがあまり出ていないと、「もっと出すように!」と指令を出したり、たくさん出ていると、「少し控えるように!」と指令を出して、調整しているのです。
女性ホルモンは、デリケート
この女性ホルモンの分泌をコントロールしている脳の視床下部、下垂体では、人の体に大切な甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモン、成長ホルモンなどの内分泌系のホルモンもコントロールしています。
この脳の視床下部、下垂体は、とってもデリケート。
脳に、ストレスが加わると、視床下部、下垂体の指令塔は、たちまち狂い始めます。ホルモンタワーである大元が狂うと、女性ホルモンの分泌が少しずつ狂い始めます。
それだけでなく、ほかの甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモン、成長ホルモンも連動して狂ってしまうのです。そうなると大変!
ホルモンは血液中に、ほんの微量に存在するだけのものなのですが、全身にさまざまな変調が起こり、体だけでなく心にも肌にも、変調をもたらします。このように、ホルモンは、非常にデリケートで、微妙な調節をしつつ働いているのです。
ストレスが女性の体にいかに影響を与えるかがわかります。
ちょっとしたストレスで、生理が遅れることを経験した人は多いと思いますが、それが女性ホルモンのバランスが乱れた証拠です。
プロゲステロンが優位な時期に“ゆらぎ不調”が!
女性ホルモンのバランスが崩れて、生理がずれても、すぐに回復すれば心配はありません。特に20代30代は、女性ホルモンの一生の波で言えば、絶好調の時期。生物学的にみても、妊娠、出産に向いていて、女性ホルモンは最高の分泌量。
でもいくら、絶好調の年代でも、女性ホルモンには、一生の波だけでなく、毎月の波もあります。それが、女性の体と心がゆらぎやすい理由です。
ですから、女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンの毎月の波が一定になれば、“ゆらぎ不調”は、ほとんどなくなります。
特に、女性がゆらぎ不調を起こしやすいのは、生理前1週間のPMS(月経前症候群)の時期。この時期に不調が多いのは、排卵後、プロゲステロンの分泌が急激に増えることからです。
疲れる、だるい、イライラする、ニキビ、肌荒れ、乳房痛、むくみ、落ち込み、体重増加、頭痛、腹痛など…。一人ひとり異なる多種多様な不快症状が現れます。
PMSに悩む女性は、生理のある時期の日本女性の70%にのぼるという数字も示されていて、その中でも6.5%の日本女性が社会生活に影響がある中程度以上の不調があり、治療対象になるとの報告があるくらいです。
女性ホルモンのバランスが乱れるときは、どうしたらよいでしょうか?
女性ホルモンのバランスを整える薬
この毎月の女性ホルモンの波を一定にする薬があります。
それが、低用量ピルです。低用量ピルは避妊薬ですが、エストロゲンとプロゲステロンを一定にして排卵を止め(卵巣を休ませるので卵巣の病気予防にもなります!)、生理をコントロールすることができます。月経困難症の治療薬としても使われています。
低用量ピルは、女性ホルモンの波によって起こる、さまざまな女性の不快症状を改善できる薬。妊娠したい時期が訪れたら、服用をやめればすぐに妊娠も可能です。
また、漢方薬も、女性ホルモンの波にともなって起こる不調対策は、得意分野です。疲れる、冷える、だるい、むくみ、イライラ、頭痛、ニキビなどにもよく効く漢方薬はさまざまあります。
漢方薬は女性ホルモンの分泌は変えないので、毎月の女性ホルモンの波に上手に乗って、不調をうまく乗り越えたい人にはおすすめです。
低用量ピル、漢方薬いずれも、婦人科の医師に相談してみることをおすすめします。
セルフケアでも“ゆらぎ不調”対策ができます
もちろん、セルフケアでも女性ホルモンの波による“ゆらぎ不調”への対処法はいろいろあります。当たり前のことですが、最も大事なのは、バランスの取れた食事、睡眠、適度な運動、そして、ストレスケアです。
もしも、PMSの不調がいつもよりつらいと感じたら、すぐにできることとしては、リラックスして休んでストレスケアすること。
30代半ばを過ぎると、最初のエイジングを感じる時期でもあります。更年期に向かって女性ホルモンが徐々に低下していくからです。
ほうれい線、シミ、たるみが気になる、むくみやすい、冷える、疲れる、だるい、イライラする、気分が落ち込む、不眠、体重が増えやすい…など、心と体、肌の症状がさらに気になり始めます。
女性ホルモンの“ゆらぎ不調”を上手に改善することで、エイジングケアにもつなげましょう!
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