愛する妻のために生理用ナプキンを開発した実話、インド映画『パッドマン』から生理の不理解が招く問題を考えよう

スーパーマンでもなくスパイダーマンでもなくバットマンでもない、『パッドマン』というヒーローをみなさんはご存知ですか??

パッドマンは安全で安価な生理用品を開発し、インドに革命を起こしたヒーローです。

このヒーローの実話が『パッドマン5億人の女性を救った男』(原題:Padman)というタイトルで、12月から日本で公開されることが決まりました。

10月に「東京国際映画祭」において先行上映され、一足早く鑑賞してきました。

インド映画「パッドマン」の主人公が手にする生理用ナプキン

 

出典:eiga.com

 

生理がタブー視されているインドの風習がテーマなので内容は非常に重いのですが、ポップなインド音楽によるミュージカル調でテンポよく進んでいくストーリーに思わず引き込まれてしまいました。

主人公が行うイノベーションはまず技術革新ですが、次にくるのが社会意識や固定観念のイノベーション、すなわちマインド・セットです。

最初は愛する妻の健康のために生理用品を作る方法を技術力を使って発明しますが、それだけでは周囲の人々の理解が得られずみんなに逃げられてしまいます。

社会の意識や伝統をマインド・セットしないと問題解決ができないのです。

男性も女性も今年中に絶対観てほしい、おすすめの映画です。

パッドマンのモデルとなった人物

本作のモデルとなった、アルナーチャラム・ムルガナンダム氏は、1962年南インド生まれの56歳。実在します。

氏は生理がタブー視されているインドにおいて、男性ながら安全で安価なナプキンを開発するために自力でナプキン製造機を発明し、同時にインドの女性たちが自らナプキンを製造し販売できるモデルを開発したことで、ソーシャルアントレプレナーとして世界的にも非常に評価されています。

その評価の高さから、2014年アメリカの「Time Magazine」が選ぶ世界で最も影響力のある100人にも選ばれ、 2016年にはインド政府から褒章パドマシュリも授与されました

氏が発明した機械は、現在インドの29州のうち23州に設置され、今後はさらに 106カ国に拡大する予定とのことです。

映画ではラクシュミという名前で登場します。

ラクシュミはインドの小さな村で愛する妻ガヤトリと、決して裕福とは言えませんでしたが幸せな新婚生活を送っていました。

ガヤトリのことが大好きで、彼女のためならなんでもする、そんな素敵な男性です。

 

生理用ナプキンを手にするインド人女性 出典:eiga.com

 

生理=穢れ(けがれ)とみなされるインドの風潮

そもそもインドの地方では生理を「穢れ(けがれ)」と捉える風潮が非常に強く、映画でも生理中の5日間を人々は「穢れの習わし」と呼んでいました。

生理が始まった女性たちは生理が終わるまでの5日間、家族と離れて別の場所で過ごさなければいけない風習があるため、学校や仕事に行けなくなりますし、初潮を迎えると学業を諦めるという女性も少なくありません。

また、血が出ることを「恥」と考えているインドの女性たちは、先祖代々生理のことを隠して過ごしています。

その結果、インドには生理の存在すら知らない男性が多いそうです。

ラクシュミは新婚生活において、家の女性たちがある日突然別の場所で生活をしなければいけないことに対して疑問を抱いていました。

愛するガヤトリが自分から離れて家の外で過ごすことが耐えらなかったのです。

しかしその理由を尋ねても、誰も教えてくれません。

むしろ聞くこと自体がタブー、何を聞かれても家の女性たちは絶対に話すことはありませんでした。

 

生理用ナプキンが3日分の食費!?

ある日、ラクシュミはガヤトリがボロ雑巾のような不衛生な布で経血の対処していることを知り、ひどくショックを受けます。

そんなものを使わず生理用品を買うようにと強く言いますが、ガヤトリは頑なに拒否。

彼女の健康を心配したラクシュミは今すぐにでも不衛生な布を捨てさせるべく、薬局にナプキンを買いに行きました。

しかしそこでナプキンが高価すぎることを知ります。

日本では30個入りのパックが安い時には200円前後で売っていますが、インドのナプキンは1パックで約3日分の食費にあたる額(当時)だったそうです。

ナプキンを使うのであれば食費を削らなければいけません。

インドの女性たちはナプキンを使いたくない、買いに行きたくないのではなく、貧しくて買えなかったのです。

たとえどんなに高価なものだとしても、愛する妻が汚い布を使うことのほうが嫌だと思ったラクシュミは、友人に借金をしてナプキンを購入しました。

帰宅後、ナプキンをガヤトリに渡すと彼女は喜びましたが、その値段を聞くと一瞬にして表情が曇ります。

そして使用を拒否、今すぐお店に返品してくるように促しました。

当時インド国内では自国製のナプキンが製造されておらず、すべて外国からの輸入に頼っていたために通常ではありえないほど高価なものになっていたのです。

 

インドのナプキン使用率はたったの12%

実際に、映画の舞台となった2000年ごろのインドでは、ナプキンの使用率が12%と、非常に少ないことがわかっています。

このデータは昔のものではなく、つい最近のものであるから驚きです。

ナプキンが買えない女性がナプキン以外で経血の対処に用いられるものというと、布のほかには葉っぱや新聞紙などがあるそうです。

そうなると心配なのが女性の健康問題。

実際に不衛生な経血の対処法によって、感染症や婦人科系の疾患にかかったり、不妊になったりすることが多く、最悪の場合は死亡するケースも珍しくありません。

作品中でも、不衛生な対処法による身体へのリスクを知ったラクシュミが早急にナプキン開発に取り掛かる場面があります。

 

愛する妻のためにナプキン開発を開始

ラクシュミは愛する妻のためになんとか安くナプキンを作る方法はないかと考え始めます。

彼は普段から物作りが得意だったので、ナプキンを作ることなどたやすいことに思えたのでしょう。

ラクシュミは薬局で購入したナプキンをよく観察してアイデアを振り絞り、布や綿、接着剤などを使用してナプキンの試作品を作り始めます。

そしてガヤトリに試作品を使ってもらうようにお願いしますが…「そんなにすぐに試せないわ。次回の時ね。」と断られます。

ラクシュミはここで初めて、生理が月1回のペースで来ることを知るのです。

インドの男性たちの生理に対する理解のなさにも驚きますが、これまでいかに女性たちが隠し続けて生きてきたのかがわかりますね。

 

生理への意識や風習を変える難しさ

生理に周期があることを知ったラクシュミは、このペースでは開発が進まないと感じ、妻だけでなく姉妹たちにもナプキンを試してもらうようにお願いし始めます。

しかし、生理がタブー視されているインドでは男性からそのようなものを渡されることはまずありえません。

たとえ身内だとしても、「嫌だ!」と断られてしまいます。

知恵を振り絞ったラクシュミは、女子医学生に協力を依頼しますが、そこでもうまく行かず…。

次第に村では変質者扱いをされ始め、ガヤトリや家族には「こんなこともうやめて!」とまで言われてしまいます。

せっかく改良を重ねてナプキンの試作品を作っても、試してくれる人がいなければ良いものは作れません。

協力者のいなくなってしまったラクシュミは途方にくれますが、ある時ひらめきました。

「誰も試してくれないのならば、自分が試せばいい!」

そう思い立ったラクシュミは早速、ゴムボールと細い管とポンプを繋ぎ、ショーツに経血が流れ出る「生理体験マシーン」を開発しました。

ゴムボールの中には経血に見立ててヤギの血液を入れましたが、より本物の経血を再現するために凝固剤を追加します。

そして本人は女性用のショーツを履き、歩いたり自転車に乗ったりしながらナプキンの使用感を確かめました。

最初は調子が良かったものの、結局失敗。

 

開発から約2年、ついに完成!

傑作だと思っていた試作品が全くもってダメだったのでラクシュミはナプキン開発を諦めたかと思いますが、逆にこれまで以上にエネルギーを注ぎ始めました。

しかしそこまで熱が入ってしまうと、家族や村の人々は「そんなことに没頭するなんてどうかしている…。」と、彼をよく思わなくなります。

次第に周囲の人々は、「アイツは変態で頭がおかしくなってしまったんだ!」と思い込みはじめ、挙句の果てに、家族には見捨てられ、愛する妻は家を出て行き、ラクシュミ自身も村から追い出されてしまいました。

しかし彼はそれでも諦めず、素材の研究からやり直して安価なナプキン開発に没頭しました。

その期間約2年。

ラクシュミはついにナプキン製造機を完成させ、安価で安全なナプキンを作ることに成功しました。

借金をしてまで購入したナプキンが55ルピーだったのに対して、ラクシュミのナプキンは2ルピー、これだと貧しい人でも手に入れることができます。

こうして、ラクシュミの努力によって多くの女性たちの手に、安心して使えるナプキンが行き渡るようになりました。

映画のタイトルにもあるように、このナプキン開発によって5億人のインド人女性を救ったとも言われています。

 

社会の生理への不理解が招く問題

インドでは生理用品が買えないだけでなく、「生理=穢れ」という概念が強いために、いまだに生理中の女性は差別的な扱いを強いられていることが分かりました。

映画では、生理中の女性が家のベランダの檻で5日間過ごさなければいけないシーンがあります。

本来、生理というのは子どもを産むことができる生殖機能の現象で喜ぶべきものです。

生理中の女性に対して軽蔑する男性たちも、元はみんな生理のある女性(母親)から産まれています。

しかし、現代でも女性たちがこのような差別的な扱いを受けているとは、非常に悲しいことですよね。

この悪しき風習・風潮に加え、生理用品が買えないことによって、女性たちは働くこともできず、学校に行くのも断念せざるを得ません。

最悪の場合は不衛生な生理の対処法によって感染症や婦人科系の病気にかかり、命が奪われることもあります。

生理用品ひとつで、女性の社会進出や教育、さらには生命にまで問題が及ぶことを、みなさんは想像したことがありますか?

少なくとも、高品質かつ比較的手頃な値段で生理用品を手に入れることができる日本人の私たちにはまったく想像できないことでしょう。

 

まとめ

今回は、12月に日本で公開される映画『パッドマン』から考える、いまだ存在する生理への不理解による問題についてご紹介しました。

「生理」が題材の映画は非常に珍しいのではないでしょうか。

少し恥ずかしいかもしれませんが、女性だけでなく男性にもぜひ観てほしい映画です。

本作はインドが舞台でしたが、インド以外の地域でも世界中にはいまだに生理がタブー視され、満足のいく生理期間を過ごせない女性たちは大勢いると思います。

これまで何気なく使っていたナプキンは、蒸れや匂いなどの不快感が強いので筆者はあまり好きではありませんでした。

しかしインドの女性をはじめ、貧しい国や地域に住む多くの女性たちは、ナプキンですら使用できずに困っています。

世界の生理事情を知ると、ナプキンやタンポン、月経カップ、サニタリーショーツなど質の高い複数の生理用品を、自分自身の意志で選択し、使用できる私たち日本人は非常に恵まれていることが分かります。

この事実を知ると、たとえ毎回の生理が辛く憂鬱だとしても、少しは前向きな気持ちになれませんか?

筆者はこの映画を観たあと、今まで以上に生理用品のありがたみを感じながら生理期間を過ごすことができました。

特に現在愛用している月経カップに関しては、長く使うことで愛着が湧きますし、これからもカップに感謝しながら大事にしていけると思います。

この冬はぜひ映画「パッドマン」を観て、あらためて社会の生理についての理解や生理用品の重要性について考えてみてはいかがでしょうか。

こちらもおすすめ