毎月ちゃんと生理きてる?スポーツと生理にまつわる話 〜後編〜
2018.05.18※ 2024年10月22日更新
スポーツと生理にまつわる話〜前編〜では、アスリートを取り巻く生理に関する問題についてご紹介しました。
今回は後編として、元水泳選手だった筆者の実話をもとに、スポーツパフォーマンスと生理の関係について考えていきましょう。
筆者は3歳から水泳をはじめて、小中高と全国大会入賞、さらにはオリンピックを目指してがんばってきました。
そんな筆者が高校3年生のときに経験した出来事をご紹介します。
初経がこないことも気にしていなかった
私は3歳から水泳を始め、小学生のときからスイミングスクールの強化クラスで毎日練習漬けの日々を送っていました。
小さいころから常に年上の人たちとトレーニングをしていたせいか、小学校高学年になっても身体は平均よりも小さく体脂肪も低く、周りの同世代は第二次性徴で女の子らしい体型になっていくなか、私はよく男の子に間違われていました。
もちろん、日本の平均初経年齢といわれる12歳になっても生理がくるはずもなく、小学校卒業時は、同学年で初経を迎えていないのは私だけでした。
中学校入学後も生理がくる気配はなく、スイミングの練習はますます厳しくなります。このころは、月曜が休み、火曜から日曜の6日間で9回練習(火曜・木曜・土曜は1日2回練習)をこなす日々でした。
中学の3年間では10cmほど身長が伸び、15歳の夏にようやく初経を迎えました。
しかし、スイミングでは16〜17歳で初経を迎える先輩もいたので、内心では「まだこなくてよかったのになぁ」と思っていたのでした。
生理が始まってしばらくは周期が安定せず、1ヶ月でくる場合もあれば、2〜3ヶ月に1回くることもありました。
生理が始まってから「太った」と言われるように
生理が始まって高校生になったころから乳房などが発達しはじめ、ようやく第二次性徴のような身体の変化がみられるようになりました。
しかし、女性らしい身体に変化していくにつれて、コーチたちからは「太った」と言われるようになりました。「太ると速くならない」「脂肪が水の抵抗になる」などと言われるたびに、「生理なんてこなければいいのに」と思うようになりました。
高校生になると朝は5時過ぎに家を出て朝練。練習後はそのまま学校へ、放課後も家に帰らずそのままスイミングへ直行。夜9時ごろまで泳いで帰宅するという生活を送っていました。
練習はどんどん厳しくなるにも関わらず、体重はなかなか減りません。
そこで、毎日のお弁当の容器を小さいサイズに変え、夜もお米の量を減らしたりして、陸上トレーニングの量も増やしました。
気がつくと生理がきていなかった
高校2年生になると水泳の成績が進路に関わってくるため、肉体的なストレスに加えて、精神的なストレスも増していきます。しかし幸いにも水泳のタイムは順調に伸びていき、学年が上がるごとに全国大会での順位は上がっていきました。
そして迎えた高校生最後の夏。インターハイで結果を残すために、夏休みは練習回数を限界まで増やして、週末は大会に出場。とにかく自分を追い込みました。
本番に向けて調整が進むなかで、ふと気がつきました。
「最後に生理がきたのっていつだっけ?そういえば最近きてなかったなぁ」
当時はスマホもなければ、アプリで簡単に生理日管理ができる時代ではなかったので、記憶だけをたよりに振り返ると、8ヶ月前だったことがわかりました。
夏休み終わっても生理が来なかったら病院へ行こうと母親と約束しました。
大会直前に突然体が動かない
トレーニングは順調に進み、上位を狙えそうなところまで仕上がってきました。
しかし、本番の数日前から突然体に力が入らなくなり、体力も落ちて、全身がだるくて、いつもの練習ができなくなってしまいました。コーチからも「全く別人のようだ」と言われるほどでした。
次の日には50mを泳ぐことすらできなくなってしまいました。
私もコーチも何が起きたのか分からず、二人で話し合った結果、2日間完全休養することを決めました。
焦る気持ちを抑えて、よく食べてよく寝て、それ以外は何もしない、できる限り水泳のことを考えない2日間を過ごしました。2日間何もしない生活なんて、初めての経験でした。
そして、2日間の休養から"久しぶり”に水に入ったのは本番2日前。通常であればありえない状況です。さらにこのとき、なんと8ヶ月ぶりに生理が来たのです。
ただでさえ調子が悪いのに、久しぶりの生理がきて下腹部が重くて痛い。もう終わったな…と思いました。
生理3日目で迎えた本番
あきらめムードが漂うなか、本番がやってきてしまいました。ところが、会場で練習してみると、これまでとはまったく違う水の感覚を得たのです。
「お腹は痛いけど、身体は軽い。どんどん前に進んで疲れない!!!」
練習でベストに近いタイムを叩き出し、何が起こっているのか自分でもよくわかりませんでした。
今まで感じたことのない不調を味わい、これ以上落ちることはないと思ったときに肩の力が抜け、身も心も軽くなったのかもしれません。
迎えた予選。少し力を抜いて泳いだのに自己ベストを4秒更新し、全体の2位で決勝に進出したのです。急に調子が上がりすぎて、体が対応しきれていない感じがあり戸惑いました。
そして午後の決勝では、お腹や腰には痛みがありながらも、全力を尽くしました。なんと、予選よりさらに2秒タイムを上げて3位という結果になりました。
1日に6秒も自己ベストを更新したのは初めてでした。その初めての経験が、絶不調で迎えた最後のインターハイとなったのです。
エネルギー不足と無月経による体への影響
有終の美を飾ることができ、進路も無事に決まりました。あれから15年ほど経った今でも、この大逆転劇を鮮明に思い出します。
インターハイが終わったあとは、2ヶ月に1回くらいのペースで生理がくるようになり、大学生になると毎月くるようになりました。
思い返すと、中高時代は頻繁に腰や肩を中心にいろいろな関節を傷め、故障しやすい体でした。
正しい知識を得た今では、当時の私の状態は、 女性アスリートの三主徴といわれる「利用可能エネルギー不足」からの「無月経」、そして、その影響による全身の不調だったのだと想像できます。
完全に身体が限界の状態だったのだと思います。
さいごに
2回にわたって、生理とスポーツの関係についてご紹介しました。
今もなおスポーツ界では、生理に対して誤った認識を持つアスリートや指導者が多いのが現状です。
人生100年時代、アスリートとして輝ける期間はほんの少しで、その後の人生の方が圧倒的に長いです。
これからはアスリートひとりひとりが正しい知識を身につけ、充実した競技生活、そしてその後の将来を過ごしてほしいと願っています。