【アスリートと生理】女子スポーツに求められる「女性らしさ」の価値観をぶち壊したい。サッカー選手・起業家 下山田志帆さん
2020.12.11サッカー選手・起業家 下山田志帆(しもやまだしほ)さん
小学校3年生からサッカーをはじめる。大学卒業後、ドイツに渡りブンデスリーガでプレー。2年プレーした後、日本に帰国。現在はなでしこリーグ2部のスフィーダ世田谷FCに所属。帰国後に同性パートナーがいることをカミングアウトし、SNSで積極的に情報を発信。選手としてプレーする傍ら、株式会社Reboltを設立し、スポーツ界におけるジェンダー問題やアスリートのキャリアという切り口で新しい挑戦を行っている。
Her Lifestyle
サッカーをはじめたきっかけを教えてください。
小学校3年生の時にサッカーをはじめました。小学生の時はほとんど男子と遊んでいて、遊び仲間から「上手いからサッカーやりなよ」と言われたのがクラブに入ったきっかけです。親は男の子とばかり遊んでいる自分をよく思っておらず、ピアノを習わされそうになっとこともありました。母親が「女性らしく育てたい」と思っていると感じていたので、サッカーをやるのは親へのアピールでもありました。
実際にサッカーをはじめてみたら、男子の中で一人だけの女子。逆に女性らしさを感じさせられるようになりジレンマを感じていました。当時はセクシュアリティどうこうではなくて、「なぜ別扱いされないといけないのか」という気持ちが強く、負けたくないと思って主張をしていました。
大学卒業後、なぜドイツでプレーしようと思ったのですか?
実はドイツにこだわりがあったわけではありません。自分の中では海外なのか日本なのかという軸で考えていました。日本はプロリーグではないので、働きながらプレーしている人が多い状況です。周りの選手を見ていると、サッカーをやめたあとの自分のキャリアがまったく見えず、海外を見据えるようになったんです。プロとして契約できて、日本よりもサッカーが文化として根付いている所でプレーしたいと思うようになり、ヨーロッパに興味を持ちました。
ドイツに決めた理由は、大学のコーチにドイツ人がいて、その人から誘われたのがきっかけです。アムステルダム近郊の田舎町で2年プレーしていました。ドイツ人はとても個人主義なので、いい意味で放っておいてくれます。最初の頃はそれがとても寂しく感じましたが、ドイツ人がそういう気質。向こうはいいと思ってやっているのだと分かるようになりました。
下山田さんはご自身を「メンズ」と認識されているとのことですが「メンズ」について教えてください
女子サッカー界では「メンズ」という言葉が普通に使われています。「男性側である人」という言い方がしっくりくると思います。メディアではLGBTQという言葉が使われますが、「どれ?」と聞かれても自分ではよく分からないし、今までも自分のことを「メンズ」と思っていたので、自分が何かと聞かれたら「メンズ」と答えます(笑)。
カミングアウトをしようと思った理由を教えてください
ドイツでの影響が大きいです。ドイツでは同性婚が認められており、ドイツにいる時には「LGBTQの一人」としてではなく、「社会の一人」という感覚でいられました。そんな環境から日本に一時帰国した際に、両親に嘘をつきながら罪悪感を感じたり、彼女がいても彼女を友達に紹介できなかったり、飲みに行けば「お前いつ彼氏できるんだよ~」と言われたり…日本はストレスがとても多く、生きづらく、それがすごい嫌だと感じました。その時に、これは公表してしまった方が楽だと思いました。
カミングアウトをした後に何か変化はありましたか?
知らない人からSNSで相談やDMが送られてくるようになりました。最初は自分が楽になるためにカミングアウトをしましたが、多くの人が話を聞いてくれる人、代弁してくれる人を求めていたのだと思いました。そう気付いた時に、辺鄙なドイツの田舎にいるよりも、日本に戻って話す場を持った方がいいと思うようになり帰国を決意しました。サッカー選手としてのキャリアという観点ではありませんが。
あとは、自分がカミングアウトした後に母親が友人に相談したら「当たり前にいるよー!」と言われたようです。母はそれで安心したそうですが、そういう風に言ってくれる人がいるというのは、じわじわと存在が認められるようになってきているということだと思います。
Her Period
初めて生理が来た時はどう感じましたか?
「めんどくせーなー」と思いました。性自認が男性の人は、「自分が女性だってことを気付かされる」と言いますが、自分の場合は「昔から自分が出産をするイメージはないのに、いらないものがきたな」という印象でした。
サッカーのプレー中にどのような生理の悩みがありますか?
練習中、汗まみれになって重たくなったナプキンがずれてきて、スライディングしたらナプキンが地面に落ちてしまって、すぐにナプキンを回収しに行きたいけれども行けない!なんていうことは女子サッカーあるあるです。男性監督の目の前で(笑)。白のユニフォームを登録しているチームもけっこう多かったりして、生理中は困っている選手も多いと思います。
激しい動きをするサッカー選手のみなさんがナプキンを使っているとは意外でした!
ドイツではタンポンが主流でしたが、日本は少ないですね。スポーツするときの生理用品についてメンバーと話すこともあまりしないですし、アスリートも親が使っている生理用品をそのまま使うことが多いと思います。そこは一般の方と変わりません。「ちょっと不便だけどこれが当たり前」という感覚でいます。痛くてもトレーニングはするのが当たり前だし、生理はつらい、気持ち悪いが当たり前なので、生理用品にわざわざ疑問を持つ人は少なく、チームのメンバーとも話さないのだと思います。
自分はナプキンをプレー中に落とした一件から、タンポンを使ってみましたが、やはりメンズとしてタンポンを入れることにモヤモヤした気持ちがあって。そこで出会ったのが、経血を吸収する生理用パンツです。これなら履くだけでいいし、ナプキンのようにずれたりしないので、これだ!と思いました。ただ、ひとつ残念なのはデザイン。どうしても、レースがついていたり、女性らしいスタイルだったりするものが多いんですよね。自分が履きたいと思うかっこいいデザインのショーツを作りたいと思っています。
Her Message
生理について読者に伝えたいメッセージをお願いします。
生理用品や生理の考え方に関して、自分も悩んだり不快な思いをしたりしてきました。同様の思いをしている人はきっとたくさんいると思います。今はいろんな選択肢が出てきているので、つらいと思ったら、まずはその「つらい」という気持ちを認めてほしいです。今はそれを解決できる選択肢がいろいろあるので、そのなかから自分にとっての答えを見つけて、これでいいんだと思えるようになれたらいいですよね。
Her Dream
今後の夢や目標を教えてください。
スポーツ界にはいまだにジェンダーバイアスが強く残っていて、女子スポーツには「女性らしさ」が求められます。そんな世の中のジェンダー問題にアクションを起こし、メディアや社会が女性スポーツに求める今までの価値観をぶち壊していきたいです。
弊社からは生理中でもプレーに集中できるようにエヴァウェアをプレゼントさせていただきました。いまは低用量ピルと吸収型サニタリーショーツの併用で日々の生活が快適になったそうです!