鈴のような形のカップに経血を溜めて使用する生理カップは、ナプキンやタンポンに変わる新しい生理用品として、日本でも徐々にユーザーが増えてきました。
今回は、生理カップを初めて手にとった方や、まだ使い始めて間もない方に向けて、カップの使用前の準備と使用後のお手入れに欠かせない、「煮沸消毒」についてご紹介したいと思います。
生理カップの使用に慣れてきた方も、このタイミングでいまいちど確認していきましょう。
多くの女性が使用している生理用品、主に「ナプキン」や「タンポン」は一度使ったらゴミ箱に捨てるという使い捨てのものが主流となっていて、今まで私たちは何も考えずにいつも生理のたびにトイレにあるゴミ箱に捨ててきましたよね。
現在、新しい生理用品として注目を集めている生理カップは、他の生理用品と比べて「繰り返し使える」ということが大きな特徴だと言えます。
使用方法にもよりますが、医療用シリコーン100%のカップの場合にはその寿命は約10年間。
でもやはりメインテナンスを雑にしてしまうと、その寿命は短くなってしまいます。
せっかくなら長く大切に使いたいですよね。
長く使えば使うほどエコにもなり、地球に優しい生活ができます。
では、なるべく長く使うためにするべきメンテナンス方法について詳しくご紹介します。
参考記事:
人生で生理にかかる費用って一体どのくらいなの? 生理用品別でシミュレーションしてみた
生理カップを箱から出し初めて手にとる際、まずはカップ全体を観察し、縁部分(リム)にある空気穴がきちんと空いているかを確認してみてください。
確認後または生理の直前に「煮沸消毒」をおこないます。
「煮沸消毒は必ずしないといけないの?」という声もありますが、感染予防のためにも生理サイクルごとに使用前と使用後に行うようにしてください。
特に夏のムシムシする時期はあらゆる細菌が繁殖しやすいので、煮沸作業は面倒くさがらずに必ず行いましょう。
煮沸消毒とひとことにいっても、何をどのくらいやればいいのかイマイチ分かりませんよね。
デジタル大辞泉によると「煮沸」とは「煮立てること。ぐらぐら煮ること。」とあります。
かなり曖昧な表現です。
煮沸消毒は特別な機器は必要なく簡単にでき、効果のある消毒方法として細菌やウイルスを殺滅するのに有効といわれています。
生理カップ「エヴァカップ」「スーパージェニー」の素材であるシリコーンは、耐熱性があるため、煮沸消毒が奨励されています。
身近なところでは、赤ちゃんの哺乳瓶の消毒にもこの煮沸が多く用いられています。
参照:「煮沸」デジタル大辞泉
煮沸消毒・熱湯消毒どちらも、お湯を用いて消毒をおこなうという点では同じです。
しかし煮沸消毒は「グツグツ沸騰する鍋のお湯に、消毒する物(ここでは生理カップ)を入れて煮立てて消毒する」のに対し、熱湯消毒は「80度〜沸騰(100度)させたお湯を、消毒する物にかけて(浸けて)消毒する」という違いがあります。
どちらも殺菌のためには有効な方法です。
後者は100度以下のお湯でも可能という点で熱いのが苦手な方には安心感がありますが、いくら煮沸消毒よりも温度が低いと言えども熱湯です。お湯をかける際にお湯が飛び散ってヤケドする恐れは十分にあります。
生理カップの熱湯消毒を考えた場合、カップの内側まで熱いお湯をまんべんなくかけるのは難しく、ヤケドのリスクはさらに高まると思います。
したがって、熱湯消毒よりも煮沸消毒をおこなった方が安全かもしれませんね。
熱湯消毒には「80〜100度のお湯に5分程度浸ける」という方法もありますが、一方で煮沸消毒は医療機器にも使われるほどに効果がある方法として幅広く実施されていて、熱湯消毒よりも効果が高いと言われています。
生理カップには小さな空気穴が空いていてそこに汚れがたまりやすいため、より殺菌効果が得られるという煮沸消毒がおすすめです。
参考:「消毒方法 消毒・滅菌の概要」日医雑誌122巻10号付録,日本医師会
生理カップ(エヴァカップ・スーパージェニー)と一緒に入っている説明書には
「鍋を水で沸騰させた後、カップを入れ10分間ほど煮沸消毒してください。」と記載されています。
電子レンジで煮沸する方法もあり、その場合は「耐熱容器にカップを入れ水に浸し、電子レンジで数分間煮沸します。」
との説明書きがあります。
煮沸消毒の時間はなぜ10分間なのでしょうか?
細菌の中には10秒で死滅するものもありますが、すべての菌を死滅させるためには最低でも10分間は必要だといわれているからです。
どうしても沸騰するまでの時間が持てない方は電子レンジの方法が有効かと思います。
今回は鍋を使用した場合と電子レンジを使用した場合の2種類の煮沸消毒の仕方をご紹介します。
煮沸消毒の前に、カップについた経血はぬるま湯や水で洗い流し、きれいにしておいてください。
鍋は普段使用しているもので構いません。
しかし、料理に使用する鍋をカップの消毒で使用するのは気がひけるという場合は、ご家庭で使用しなくなった鍋をカップの煮沸消毒専用にしても良いかもしれません。
最近では100円ショップでも手頃に鍋を入手できますので、参考にしてみてください。
鍋は大きすぎず小さすぎず、大きさよりも深さが重要だと思います。
鍋に水を入れますが、このときカップがすべて水に浸る程度の水量にしてください。
カップの一部が水から出ていたら効果が得られません。
↓このように一度カップを入れてカップが十分に水に浸る水量を調節してみてください。
※水に浸ることを確認したら一度カップは取り出します。
鍋を温めましょう。
沸々と沸騰してきたら、カップを鍋の中に入れましょう。(10分間)
写真手前の赤いカップのように、沸騰したお湯によってカップがどんどん水面にあがってきてしまいます。
菜箸などをうまく使い、カップを泳がせるようなイメージで全体がお湯に触れるように調節してあげてください。
このとき、カップが破損しないように、カップが鍋底や鍋の側面にずっと触れた状態にならないように注意しましょう。
なるべく見守っていてあげてくださいね。
約10分間煮沸したのち、火を止めます。
ザルなどを使用し鍋のお湯を捨て、カップを取り出しましょう。
このとき、お湯の蒸気や、熱くなったカップによるやけどには十分注意してくださいね。
熱くなったカップをやけどに注意しながら水で軽くゆすぎましょう。
ゆすいだ後は水気を切り、キッチンペーパーやタオル等で軽く拭きましょう。
以上で煮沸消毒は終了です。
カップの水気を切ったあとは、そのまま専用の袋に入れるのではなく、清潔な場所に置くなどして完全に乾燥させてください。
次の生理がくるまで保管する場合には、完全に乾燥したことを確認してから保管しましょう。
保管についてですが、乾燥しきらないままの保管、密閉されるような袋やプラスチックケースへの保管はしないようにしてください。
カビが生える原因になります。
エヴァカップとスーパージェニーの箱の中にはカップ収納用のポーチが付属されています。
具体的な煮沸消毒の方法についてご紹介しましたが、菜箸だけで10分間ずっとカップを泳がしているのは、熱くて大変ですよね。
そんなとき、あの台所用品が大活躍します。
こちら、味噌をとく時などに使うものですが、100均などでも簡単に手に入ります。
これを使用すると、鍋とカップが直接触れることがないので煮沸しやすくなりますよ。
このようにセットして行ってみてください。
鍋を使用した時と同様に、煮沸消毒の前はカップについた経血はぬるま湯や水で洗い流し、きれいにしておいてください。
今回はマグカップを使用して煮沸消毒をおこないます。
なるべく底が深く、容量のあるものを選びました。
タッパーやその他の耐熱容器を使用する際も、生理カップが水に十分に浸る程度の深さが必要です。
「普段飲み物や食べ物を摂取する容器を生理カップの煮沸消毒に使用するのはちょっと…。」という方は、カップの煮沸消毒専用の容器を用意してみてはいかがでしょうか。
ご家庭で余っているマグカップを使用してもよいですし、100円ショップにはさまざまな種類の耐熱容器があるので自分の好きな容器を選ぶのも楽しそうです。
用意した容器に生理カップを入れ、カップ全体がかぶる程度に水を入れます。
今回はマグカップの淵から1センチ程度の部分まで水を注ぎました。(やや多め)
よく観察していると、開始2分程でフツフツし始め、3分程で水がグツグツしてきます。
様子を見ながら沸騰を続けます。
水を多く入れすぎたのが原因か、残り1分のところでカップからグツグツしたお湯が溢れ出てきました。
レンジの受け皿に溢れたお湯がだいぶ溜まってきたため、4分で一度レンジを止め、残りの1分はレンジの中でそのまま放置しました。
レンジに入れてから5分後、レンジの蓋を開けて中の様子を見ます。
すでに沸騰はおさまっていたので、そのまま容器を冷まします。
マグカップは取っ手を持てば熱くなくスムーズに取り出すことができますが、取っ手のない容器を使用する場合はやけどの危険があるので、レンジの中で冷めるまで放置しておくとよいでしょう。
すぐにまたレンジを使用しなければいけない場合は、鍋つかみや布巾を使用するなどして、やけどに気をつけて取り出してください。
20〜30分放置すると、容器は触れるくらいに冷めてきます。
容器の種類や形によって冷めるまでの時間が異なるので様子を見てみてください。
マグカップは20分弱で取っ手以外の部分も触れるほどに冷めたので、お湯をすてて生理カップを取り出します。
今回は平気でしたが、生理カップもかなり熱くなっているので注意しながら触るようにしましょう。
水で軽くすすぎ、タオルやキッチンペーパーで軽く拭きます。
これで一通り煮沸消毒は完了です。
初回は注意深く様子を見ながらおこないましたが、適切な水の量や時間設定が分かったので、次回からは手間が省けてスムーズにおこなえると思います。
鍋を使用した煮沸消毒の時と同様に、カップの水気を切ったあとはそのまま専用の袋に入れるのではなく、清潔な場所に置くなどして完全に乾燥させてください。
今回のような蓋のない容器を使用した場合、水の量が多いと途中で溢れてくること分かりました。
多すぎず少なすぎず、生理カップが十分に浸る程度の容器の深さと水の量が大切です。
何度かおこなうことで、使用する容器の適切な水の量が分かってくると思うので調整してみてください。
マグカップは取っ手がついているのでレンジから取り出しやすいという利点がありますが、一方でお湯が溢れやすいという難点もあることがわかりました。
今回はよく観察しながらおこなったためお湯が溢れても大事には至りませんでしたが、うっかり見過ごしていたら大惨事になっていたかもしれません。
そのため、カップよりもタッパーのような蓋つきの容器があると良いでしょう。
100円ショップには袋麺と水を入れてチンするだけでラーメンが作れてしまう便利グッズをはじめ、電子レンジで調理ができる耐熱容器を数多く取り揃えています。
これらはレンジで沸騰させるために作られた容器なので、生理カップの煮沸消毒にも十分に応用ができそうですね。
ただし、タッパーなどの取っ手のない容器はチンしたあと、熱くて取り出しにくいという難点があります。
くれぐれも火傷には注意し、冷めたのを確認してから取り出すようにしてください。
今回は「煮沸消毒」に注目して生理カップのメンテナンスの方法をご紹介しましたが、そのほかにもカップを清潔に保つための注意点をいくつかご紹介します。
①カップは高温・多湿な場所や直射日光を避けて清潔な場所に保管するようにしましょう。日本は非常に湿度が高い国です。特に湿度が上昇する梅雨の時期は、カビがはえないように注意しましょう。
②エヴァカップやスーパージェニーに使用されているシリコーンは耐久性に優れていますが、定期的にひび割れやべたつき、変色などの劣化がないかチェックをしてみてください。万が一劣化や破損の兆候がある場合は使用を中止してください。
③膣内に挿入して使用するものなので、キッチン用の漂白剤などの強い薬品を使用することは絶対にしないでください。
④カップの消毒にミルトンは使用しないでください。ミルトンの成分である次亜塩素酸ナトリウムがシリコーンを傷める可能性があり、商品の劣化を早める原因になります。
⑤カップを保管する際は、ペットや乳幼児の手の届かない場所に保管するようにしてください。
煮沸消毒ってよく耳にしますが、実際にやってみるとなると「どうやるの?」「何分くらい?」など、分からない点がいくつかあると思います。
今回は「生理カップの煮沸消毒の方法」に注目し、カップをより安全に長く使用するためのメンテナンス方法についてご紹介しました。
生理カップの寿命は最大で約10年間です。
しかし、使い方・保管方法によっては、1年間でだめになってしまう可能性もあります。
お財布にも、地球環境にやさしい生活を送るために、ぜひ生理カップを適切にケアして大切に使用していきましょう。
参考記事:
生理カップ選びに役立つ!生理カップのデザインと機能を徹底解説
生理カップにはサイズがある。初めての生理カップのサイズの選び方とは?
おすすめの生理カップは?形、サイズ、使いやすさを比較してみた。
生理カップを使用しはじめたころ直面する問題点とその解決法をご紹介!入れ方編
生理カップを使用しはじめたころに直面する問題点とその解決法をご紹介!取り出し方編
インテグロ株式会社 生理ケア&生理カップアドバイザー
1990年東京生まれ。筑波大学体育専門学群 卒業、中高保健体育教員免許取得。筑波大学人間総合科学研究科体育学専攻 博士前期課程 修了。
小さいときから身体を動かすことが好き。3歳から水泳を始め、約18年間競泳選手として活躍。大学院在学中は、スポーツを通じた国際協力としてNGOにてカンボジアの小学校の体育科教育の普及に携わる。また、日本では小学生から大人までの幅広い年齢層に水泳の指導を行う。
2017年生理カップと出会い、生理中の過ごし方や生理に対する捉え方が大きく変わり、生理カップを通じて女性がより快適で自由に過ごせるように、社会や家庭でアクティブに活躍する女性たちをサポートしたいと思うようになる。世界中の数十種類もの生理カップを試してきた経験から、生理カップの選び方や使い方、経血量やライフスタイルに合わせた生理ケアについて、アドバイスを行ったり、ワークショップを開催したりしている。
現在、女性の体や性教育、妊娠・出産・子育てについてより専門的な知識を身につけるため、一般社団法人ウィメンズヘルスリテラシー協会(代表理事:丸の内の森レディースクリニック 院長 宋美玄先生)主催「これだけは知っておきたい」講座を受講中。