女性の不調や未病対策が得意な漢方。体調管理が難しい今こそ、知っておくべき!

コロナ禍で、健康不安や心身の不調に敏感になっている人が増えています。

こんなときだからこそ、漢方(東洋医学)を見直してみませんか? 

検査では、「異常なし」とされる場合でも、漢方では、「未病(健康と病気との間のグレーゾーン)」と捉えて、治療対象になります。

自分の体調が不安、何か支えになるものが欲しい、と思ったら、心と体が「中庸(偏らず、バランスよく真ん中にいる状態)」でなくなっているかもしれません。

特に女性は、生理周期による体調のゆらぎもあります。

不安があるときは、すでに症状が始まっている可能性も。

いざというとき助けてくれる、漢方について今こそ、知っておきましょう。

文/増田美加(女性医療ジャーナリスト)

複数の生薬がさまざまな薬効を生み出す

漢方(東洋医学)の治療は、西洋医学のように細菌やウイルスを直接殺すことを目的にするのではなく、自然治癒力、免疫力を引き出して、菌やウイルスに対抗できる体をつくることを目的のひとつにしています。

たとえば、インフルエンザが流行しているときに、漢方薬「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」を処方されることがあります。

「補中益気湯」には、免疫力を高める朝鮮人参や黄耆(おうぎ)という生薬が含まれています。

これらは、特定のウイルスを消滅させるわけではありませんが、体内の免疫力を高めることで、ウイルスを跳ね除け、感染リスクを下げるという特徴があるのです。

漢方薬に使われている生薬は、自然界にある植物や鉱石といった素材で構成されていて、それぞれの特性と、作用、副作用があります。

漢方薬は、複数の生薬が配合されているもののことを言い、生薬を単体で使うものは、漢方薬ではありません。

漢方薬は、作用を強める生薬や毒性や副作用を弱める生薬など、複数が配合されることで、生薬単体より薬効が高まるようにできています。

この配合の法則は、2千年以上の経験医学を通じて培われてきたもので、日本人の体質、気候、風土に合った日本独自の医療なのです。

漢方は、女性の不調改善が得意分野です。

女性ホルモンのバランスの変化によって左右され、体調コントロールが難しい生理前の時期や産後、更年期の女性の体と心を下支えすることもできます。

 

病気でなくても、漢方薬を飲んでいい?

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「漢方は、長く飲まないと効かない」。そんなイメージがあるかもしれません。

漢方薬は、2~10種類の生薬を配合して作られていますが、この生薬には、上薬、中薬、下薬という三段階があります。

長く飲んで、穏やかに体質改善をするのは、「上薬」に分類される漢方薬です。

一方、「下薬」は作用が強く、即効性があり、頓服としても使われる漢方薬です。

風邪などの急性熱性感染症の治療としても、昔から使われています。

また、メンタル症状への漢方薬の処方も増えています。

「上薬」「中薬」「下薬」としても、メンタル症状に処方されています。

うつ病とまではいかないまでも、気分の落ち込みやイライラ、不安、不眠など、女性が感じやすいメンタルのケアには、漢方薬が良い適応になります。

 

あの人に効く薬が、私にも効くとは限らない「同病異治(どうびょういち)」

漢方(東洋医学)では、ひとりひとりの「証(しょう)」に合わせた治療を行います。

そのため、同じ病気でも「証」が違えば、違う漢方薬が処方されます。

たとえば、西洋医学では、風邪を一括りにして、概ね同じ薬が処方されます。

しかし、漢方では、風邪の引き始めに「葛根湯(かっこんとう)」が処方される人もいれば、「桂枝湯(けいしとう)」が処方される人もいます。

また、同じ風邪症状でも、体力が衰え、寝汗をかく人には、「桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)」。

風邪に加えて胃腸症状がある人には、「桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)」などが処方される場合もあります。

あの人に「葛根湯」が効いたからといって、私に効くとは限らない。それが漢方の「同病異治」です。

 

風邪でよく処方される漢方薬 

  • 風邪のひき始め(実証) :葛根湯 
  • 風邪のひき始め(虚証) :桂枝湯
  • 手足のしびれがある場合 :黄耆桂枝五物湯(おうぎけいしごもつとう)
  • 寝汗がある場合     :桂枝加黄耆湯
  • 関節痛がある場合    :柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
  • 胃腸症状がある場合   :桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)

いくつもの症状に、同じ薬「異病同治(いびょうどうち)」

異なるさまざまな症状や病気に、同じ薬が処方されるという「異病同治」も、漢方薬の特徴です。

たとえば、風邪の初期の実証タイプの人に効く「葛根湯」は、風邪だけでなく、肩こり、腰痛、神経痛…と、さまざまな症状改善にも処方されます。

また「抑肝散(よくかんさん)」は、子どもの夜泣きに使われますが、「虚証」タイプの不眠症、神経症などのメンタル症状にも処方されます。

最近では、アルツハイマー型認知症の徘徊や興奮などBPSD(認知症の行動・心理症状)を抑える薬としても、使われ始めています。

「葛根湯」の効能には、風邪、肩こり、腰痛、神経痛、頭痛、中耳炎、鼻炎、慢性副鼻腔炎、結膜炎、乳腺炎、湿疹、蕁麻疹があるのです。

 

漢方薬は複数の生薬の組み合わせのハーモニー

漢方薬は、複数の生薬の組み合わせです。生薬ひとつだけでは、漢方薬とは言いません。

ですから、アガリクス、ドクダミ、ショウガなどの1種類だけの生薬は、漢方薬とは言いません。

たとえば「葛根湯」は、以下の7つの生薬で構成されています。

(グラム数は製薬会社によって多少異なります。)

葛根4・麻黄3・大棗3・甘草2・桂皮2・生姜2・芍薬2(グラム)

桂皮はシナモンのことですが、それ単体では薬ではありません。

生姜も同様です。

 

漢方が目指すのはバランス! 目指すは“中庸” 

漢方(東洋医学)が目指しているのは、どちらにも偏らずバランスの良い「中庸(ちゅうよう)」の状態です。

体力があって、暑がりで赤ら顔、胃腸が強く便秘気味、風邪をひくと高熱が出るが回復も早い、これらは「実証(じっしょう)」タイプです。

逆に、体力や抵抗力がなく、やせ型、または水太りで顔が青白く、下痢気味で寒がりの人は、「虚証(きょしょう)」タイプです。

どちらが有利ということではなく、漢方では心身全体の調和を図り、どちらかに傾いた、体の中のアンバランスを整え、“中庸”を目指すことを大切にします。

また、漢方では、薬だけではなく、日常生活の「養生」も大切にします。

そのため、自分の傾いた状態を把握しておくことも大切と考えます。

 

漢方は中国、韓国のものとは違う日本のオリジナル

日本の漢方は、7世紀ころ中国から伝来しました。

江戸時代には、日本の環境や日本人の体質に適した日本独自の漢方医学の体系が出来上がりました。

「漢方」は、オランダ医学=「蘭方」と区別するためにできた言葉です。

さらに、明治以降は、西洋医学に対して「東洋医学」という言葉が使われ始めました。

また、中国の「中医学」や韓国の「韓方」とは異なり、日本の漢方は、西洋医学を学んだ医師が行います。日本独自の医学です。

 

治療は、病名ではなく「証」で決まる

漢方(東洋医学)では治療方針を決めるために、診察で診るのが「(しょう)」(体質、タイプ)です。

「証」を診る指標には、「陰と陽」「虚と実」などがあります。

新陳代謝が低下し、冷えた状態を「陰」。反対に、新陳代謝が活発で、熱感がある状態を「陽」と考えます。

また、「虚証」は、体力がなく胃腸が弱く、抵抗力がないタイプです。逆に「実証」は気力があり、抵抗力が強いタイプです。

ほかにも心身の状態を「気・血・水」という概念でも把握します。

このように漢方では、病名や検査結果で治療するのではなく、その人の心身の状態を漢方特有の診察で見極め、いくつもの指標で、総合的に判断して治療します。

病を診るのではなく、人を診る医学なのです。

それぞれの配合量(ℊ数)は医療用(医師処方)か、一般用(市販薬)か、また製薬会社によって多少の違いがありますが、生薬の組み合わせは同じです。

音楽でたとえれば、生薬は音符。

音符を組み合わせたメロディーが漢方薬です。

まさに、生薬の組み合わせの妙で、漢方薬のハーモニーが出来上がっているのです。

 

気分の落ち込み、不眠、のどの詰まりなどのメンタル症状にも

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東洋医学(漢方)では、軽いうつ症状は、「気」の異常と考えます。その人の「証」(体質、タイプ)や症状に応じて適した漢方薬が処方されます。

精神科や心療内科にかかるほどでもない、気分の落ち込み、イライラ、倦怠感、不眠、のどの詰まりなどの心の不調には、漢方薬が良く効きます。

漠然とした不安やのどの違和感は気が滞っている「気滞(きたい)」で、代表的な漢方薬は「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」「香蘇散(こうそさん)」です。

気力低下、全身の倦怠感、不眠は、気のエネルギー不足で「気虚(ききょ)」ととらえ、「加味帰脾湯(かみきひとう)」「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」などが代表的です。

ほかにも、イライラや気分変調なタイプには「加味逍遥散(かみしょうようさん)」。

神経の高ぶり、精神不安などには「抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)」なども女性によく処方されます。

 

漢方専門医は、「証」をどう診察する?

漢方(東洋医学)では、「証」の見極めが大事です。

日本の医師の8割は、漢方薬を処方しますが、漢方専門医なら「四診(ししん)」で「証」を診て、適切な漢方薬を処方してくれます。

五感をすべて使って、診療するのが漢方治療です。

漢方(東洋医学)専門の医師の診療は、西洋医学の診察と異なる特徴があります。

それが「四診」です。

四診では、「聞診(ぶんしん)、望診(ぼうしん)、切診(せっしん)、問診(もんしん)」を行います。

これらの診察で得た情報を組み合わせて、総合的に患者さんの「証」(体質、タイプ)を見極めます。

漢方の専門医は、この「証」に従って、漢方薬をどう使うか、鍼灸を組み合わせるかなどの治療方針を決めます。

西洋医学は、血液、尿や画像検査などの数値やデータで病気を特定し、病気の治療を行います。

しかし、漢方(東洋医学)では、同じ病気でも「証」によって処方が異なる(同病異治)など、「証」の見極めが重要です。

「証」は、診察を受けた今の状態なので、治療を受けたり、季節や年齢、生活習慣が変わることで変化します。

ですから医師は、2回目以降の診察でも、四診を行って新たに「証」を見極め、同じ漢方薬を継続するか、変更するかを考えていきます。

漢方(東洋医学)は、病気を診るのではなく、ひとりひとりの体と心を診る医療です。

ですから、漢方薬だけではなく、漢方薬が効く体づくり、日常生活による「養生」を大切にします。

暴飲暴食、偏食、冷たいものを摂りすぎることなども避け、胃腸がより良い状態で働くような食養生もアドバイスします。

また、日常生活における休養、睡眠、運動などの養生生活も大切です。

それが心身を“中庸”に近づけ、“気血水”のバランスを整えることにつながるのです。

 

東洋医学の診察法“四診”

① 聞診(ぶんしん)

声や呼吸、咳の音を聞いて、患者さんの状態を把握する診察。たとえば声がかすれて、途切れがちだと、「気」が不足していると考えます。

また、聞診の「聞」には、体から発するにおいをかぐという意味もあります。

体臭や口臭も体の状態を反映しています。たとえば口臭が強いと、胃や口の中の変調を疑います。

 

② 望診(ぼうしん)

顔色や舌を目で見ます。「気・血・水」の状態は、顔色にも現れやすいとされています。

顔色は「気・血」が不足していると白っぽい、「血」が上昇して熱がこもると赤っぽいなどを診ます。

また、「舌診(ぜつしん)」では、舌の形や色から「水」の状態や、むくみ、胃の不調ほかを判断します。舌の裏の血管から、血が滞る「瘀血(おけつ)」の状態などを判断します。

 

③ 切診(せっしん)

  • 腹診(ふくしん)
    おなかに軽く触れながら、腹部全体の状態を診ます。軽く押しながら、筋肉の張り、腹部の弾力、痛みやかたまりの有無、脈打つところはあるかなどを確認します。
    たとえば、おなかが膨れ、押圧で痛みがあると「実証」。押すと痛みが和らぐのは「虚証」です。また、硬いかたまりがあると「瘀血」、かたまりがあっても押すと消えると「気滞」と判断します。

  • 脈診(みゃくしん)
    脈診は、左右3か所ずつ、計6か所を触れます。病状が急性期のときは、脈診を重視し、逆に慢性期には腹診を重視します。
    脈診では、軽く触れて、脈が得られるときは、発病の初期。肌の深い部分で脈を感じると、病状が体内に停滞している状態。脈拍が速いときは、「気・血」の流れが速い状態と判断します。

 

④ 問診 (もんしん)

患者さんから直接、病気や不調の状態、過去の病歴、日常生活の様子などを聞き取る診察です。

西洋医学でも問診は行いますが、漢方(東洋医学)独特の問診の内容は、熱、汗、痛み、飲食、口渇、大小便、睡眠、月経などについても聞きます。患者さんから、主観的な自覚症状を聞くことを、漢方では特に大事にしています。

 

これが漢方(東洋医学)で特徴的な診察法「四診」です。

4つの手法で、患者さんの今の状態を把握します。

四診の結果を総合的に判断して、「虚証、実証」「陰、陽」「気・血・水」などの

「証」を診断して、漢方薬の処方などの治療方針を決めるのです。

 

漢方専門医の探し方:

「一般社団法人日本東洋医学会」漢方専門医検索で、全国の各診療科の専門医が検索できます。

 

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