生理中の水泳って大丈夫?元水泳選手が伝えたいこと

※ 2024年10月22日更新

3歳から大学まで水泳をしていた元水泳選手の私は、人生のほとんどを水の中で過ごしていました。長い水泳競技生活の中で、毎月の生理に対して自分なりの対処法を自然に身につけ、いつもと変わらず泳いできました。

そんな私は、中学生から高校生にかけて、水泳の授業のときにプールサイドに洋服を着た女子生徒たちが長い列を作って見学をしている光景にいつも違和感を抱いていました。

みなさんの中にも「生理中の水泳はよくない」というイメージを持っている方がいるのではないでしょうか。

実は、「月経中のスポーツ、特に水泳の可否」については、1989年に日本産婦人科学会が小児・思春期問題委員会報告書(月経期間中のスポーツ活動に関する指針)として、2010年には日本臨床スポーツ医学会産婦人科部会が「月経中のスポーツ活動に関する指針」(日本臨床スポーツ医学会誌:vol18 No.1, 2010)として、「生理中の水泳は医学的に問題ない」ということを示しています。

つまり、生理中の水泳は強制するべきではありませんが泳いでも大丈夫、ということなのです。

今回は生理中の水泳について多くの方がもつ疑問や対処法にについてご紹介します。

生理は病気ではない

女性の体は、排卵し受精卵を育てる子宮の内膜を厚くしたりなど、月のサイクルで妊娠に備えるための準備をしています。しかし、人間は毎月妊娠するわけではありませんよね。

そこで妊娠しなかったことによって、いらなくなった子宮内膜がはがれ落ちて血液とともに排出されます。これが生理です。

生理は女性の体で起きるひとつの現象であり、病気ではありません。

しかしながら、多かれ少なかれ生理前や生理中には頭痛や腹痛などのさまざまな不快症状が現れ、なかには日常生活に支障をきたすほどのひどい症状が出る人もいます。

そのため、生理中の体育の授業は、「生理だから休んでもいい」と、まるで病気のように扱われていたのでしょう。

女子生徒たちもそれをいいことに、体調が悪いわけではないのに、「生理だから休んでもいい」「生理って言えば、特に男性教諭は何も言い返してこない」という雰囲気を作り、なかには水着を忘れただけなのに「生理って言えばいいや」と水泳の授業をさぼる人もいました。

もちろん、経血量が多くて貧血気味だったり、ひどい生理痛などがある場合には、無理をして運動をするべきではないと思いますが、医学的に「生理中は絶対に安静」ということはないのです。

生理中の水泳は医学的には問題ない

「月経中のスポーツ、特に水泳の可否」については、日本産婦人科学会が1989年、日本臨床スポーツ医学会は2010年に指針を出しており、元水泳選手であり「日本水泳ドクター会議」に所属するスポーツドクターでもある産婦人科医の江夏亜希子先生は、一貫して「医学的には問題ないけれども、強制はすべきではない。水に入る前や上がった後の流血に配慮すべき」という見解を示されています。

この指針を学校の授業に置き換えると、生理によって体調が優れない生徒に対しては休ませ、そうではない生徒は体育の授業に参加しても全く問題ないという解釈になると思います。

日本産科婦人科学会では30年近く前からこのような指針を出しているのにも関わらず、「生理なら仕方ないね」という雰囲気や風潮が教育現場を中心にいまだに存在します。

その理由には、中学校高等学校ともに学習指導要領の保健体育、水泳の項目には「生理中の女子生徒に対する指導について」などという記載がないこともあげられます。

体育の教諭は男性が多いこと、また、生理痛の強さや経血量などは個人差があるため他者と比べることができないことも原因のひとつかもしれません。

生理中の水泳が大丈夫な理由とは?

生理中の水泳が大丈夫な理由

では、なぜ生理中の水泳が問題がないといわれるのでしょうか?

主な3つの理由をご紹介します。 

① 運動が生理痛を軽減させる

生理痛がつらいから1日中じっとしている、これは実は逆効果だそうです。

動かないでいると下半身の血流が悪くなるため、経血を押し出そうと子宮が収縮して痛みが増すといわれています。

生理中の適度な運動は、生理痛だけでなくPMSによる気分の落ち込みなどを改善する効果もあるそうです。

生理中は無理のない範囲で、なるべく運動をしたほうがいいのです。

お風呂上がりに血流を促したあとに軽いストレッチをするなど、生活の中で無理なくできることからはじめてみましょう。

このようなことから、生理中の水泳についても、特に体調が悪くなければ、通常どおり行っても悪影響はないといえます。

日本産科婦人科学会によると、妊娠中の諸症状(むくみや倦怠感、頭痛など)が水泳によって軽減されたという報告もあります。

参考記事:女性の栄養と運動妊婦のスポーツ:聖路加国際病院産婦人科医長 伊藤博之(1999年9月 クリニカルカンファレンス N-289)

② 水中では経血は出にくい

経血は自分の意思で出すタイミングをコントロールできないからこそ、その対応に苦労すると思います。

日常生活に加えて、特に運動しているときは突然の動きや激しい動きによって、経血漏れをしないかが心配で集中できなかったり思い切り動けなかったり・・・。

水泳の場合は、水中で経血がダラダラと流れ出てきてしまったらどうしようと心配になるかもしれませんが、実は、水中では水圧によって地上にいるときよりも経血が出にくくなります。

ただし、水から上がったあとは経血が出やすくなるので、濃い色のバスタオルを用意しておいたり、シャワーをすぐに浴びてサっと着替えるというような対策が必要です。タンポンを使用するのもよいと思います。

③ プールでの感染リスクはほぼない

生理中の水泳に関する疑問のひとつに、水中に出る他人の経血によって、HIVやB型・C型肝炎への感染を心配する方もいるかもしれません。

確かに、HIVやB型・C型肝炎は血液や体液を介して感染する病気ですが、専門家の指針によると、塩素などを使用した水質管理がされているプールでは、「生理中の水泳による感染は問題ない」とされています。

ある感染症内科の医師は、「ヒトの肛門周辺には平均0.14グラムの便が付着している。つまり100人の子どもがプールに入れば14グラム程度の便がプールに溶け出していることになる。遊泳用のプールの衛生基準はこれらを前提として、塩素濃度0.4~1.00ppmを保つようにするなど定められている」と説明し、「この濃度では死滅までに時間のかかるウイルスもあるが、細菌の塊といえる便に比べれば、数ccの経血による感染リスクは大した問題ではない」と述べています。

参考:生理中のプール授業 医学、人権上問題は? 副読本に「大丈夫」の表記で半強制的に 「休む」選択肢必要:琉球新報 

生理中、水泳選手はどうしてるの?

1年のほとんどを水着で過ごしている水泳選手はどのように過ごしているのでしょうか?

水泳歴20年以上の筆者がおこなった聞き取り調査によると、多くの水泳仲間は泳いでいる時に「タンポンを使っている」または、「特に何もしていない」という結果になりました。

ちなみに筆者は、経血量に合わせて多い日はタンポンを使用し、ほとんど出なくなる生理の後半は特に何もしていませんでした。

初経を迎えて間もないときは、不安でタンポンを連続使用していましたが、量が減ってくる時期に出し入れすると擦れて痛く、使用するのにはやや抵抗がありました。

生理中の水泳 タンポンを使用する

さらに水着からタンポンのヒモが出ていないかという心配があり、練習に集中できないと感じたこともありました。

また、長時間の練習では、タンポンのヒモから水が染み込んで本体の吸収する部分が水を吸ってしまい、結果的に経血を十分に吸収できず、プールサイドに上がったときに、漏れてしまうことも・・・。

そんなときに、先輩から「泳いでいるときは血ができないから大丈夫だよ」と聞き、それからは量によっては何もつけずに泳ぐこともありました。

泳ぐ前にプールサイドでストレッチなどをするときは水着にナプキンをつけ、泳ぐ直前にトイレで取り外し、シャワーを浴びてからプールに飛び込みます。

注意したいのは水から上がったとき

水中では経血漏れを気にする必要はありませんが、水から上がって水圧がなくなると経血が出やすくなります。できる限り素早くシャワーを浴びて着替えるのがおすすめです。

もしレジャープールや海水浴などで、何度も水中と陸を行き来するような場合は、タンポンや月経カップを使うとよいでしょう。

タオルは万一に備えて濃い色のタオルを用意しておくことをおすすめします。

多くの水泳選手は絞って何度でも使える「セームタオル」というものを使っています。セームタオルとは水分を吸った後に軽くしぼることですぐに吸水性が復活する特殊な素材で作られた便利なタオルです。

1日に何度もプールに入ったり出たりする水泳選手にとっては、水着と同じくらい大事な必需品です。

このセームタオルにはカラーバリエーションがあるので、「赤」を1枚持っていると多少経血がついても目立ちません。同時にすぐ洗えば汚れも落ちるので洗濯も簡単ですし、スポーツ用品店で誰でも簡単に手に入れることができます。

タンポンがうまく使用できない方や、初経を迎えたばかりの小・中学生などにはこれらのグッズを活用することをおすすめします。

参考記事:スイムタオル(セームタオル)おすすめ4選。使い方や効果を解説:FUNDAY 2024年3月29日

水泳のときにおすすめの新しい生理用品

水泳時にぜひおすすめしたいのが、月経カップです。

生理中の水泳におすすめの生理用品「月経カップ」

左:エヴァカップ、中央:スーパージェニー、右:ディーバカップ

月経カップはタンポンと同じように腟に挿入し、腟内で経血を溜める生理用品です。経血が溜まったら、カップを取り出して経血をトイレに流し、カップを洗って再度装着するだけ。

従来の生理用品と異なる大きな点は、「長時間連続で使用できる」「漏れにくい」「洗って繰り返し使用できる」ことです。

水泳のみならず、タイトで露出の多いレオタードなどを着用する体操、フィギュアスケート、バレエ、ダンス、チアリーディングなどをする女性にはぜひおすすめしたいです。

月経カップのなかには「ディーバカップ」のように10代から使えるサイズも登場しており、中高生のユーザーも少しずつ増えてきています。

月経カップは決して大人が使うものではなく、生理があって、使いたい気持ちがあれば誰でも使うことができます。

気になる方は、中学生で月経カップデビューをした三浦ななみさんの記事をぜひご覧ください。ななみさんはプロサーファーを目指し、毎日トレーニングに励んでいますが、「生理のときも海で思いっきり練習がしたい」という気持ちから、お母さんと一緒にカップデビューしました。

【月経カップ体験談】プロサーファーを目指す中学生。生理で困っている仲間に月経カップを教えてあげたい 三浦ななみさん

【月経カップ体験談】プロサーファーを目指す中学生。生理で困っている仲間に月経カップを教えてあげたい 三浦ななみさん

サーフィン大国の宮崎県でプロサーファーを目指す、現在、中学3年生の三浦ななみさん。生理中も海に入りたい!という思いで、お母さんと一緒に月経カップデビューしたそうです。 愛用中のアイテム:ディーバカップ モデル0

水泳のときに月経カップをおすすめする4つの理由

月経カップは、今ではドラッグストアなどでも見かけることが増えましたが、筆者が競泳選手として過ごしていたときには日本ではまだ存在しませんでした。

大会や合宿などのイベントごとに生理が重なることが多く、選手としては苦労をした方だと思います。そのころから月経カップがあればもっといいパフォーマンスが出せたかも、というのが本音です。

競技引退後は、趣味としての水泳が生活の一部になりました。

泳ぐときはもちろんのこと、指導の際はプールサイドに立つ時間が多くなるので、そんなときに月経カップが大活躍しています。

ではあらためて、水泳時に月経カップをおすすめする理由をまとめました。

① 経血が漏れない

公共のプールを使用する際は約1時間に1回は必ず全員がプールサイドに上がり、休憩を取らなければいけない時間があります。

プールサイドで、水着の上にジャージなどを着用することができれば、生理中でも他人の目が気になりませんんが、ほとんどの公共のプールはプールサイドでの衣服の着用・持ち込みが禁止となっているのが現状です。

こんなときに、月経カップを使用していれば、経血漏れなどを心配することなく過ごすことができます。

② タンポンのヒモによる不快感や心配事がない

長時間水中にいると、タンポンのヒモから水が吸い上げられて本体が膨張することも。そうなるとタンポン本体は経血を吸収することができず、漏れやすくなります。

また、常に出ているヒモが当たって不快だったり、清潔ではないと感じることもありますよね。ヒモが水着からはみ出てしまう可能性もあるため、常に他人の目が気になります。

月経カップの場合にはそれらの心配がなく、泳ぎに集中できます。

③ タオルが汚れない

水圧のある水中では経血が出てくることはあまりないのですが、水から上がれば経血が出やすくなります。

シャワーや更衣室に行くまでの時間にタオルでおさえれば漏れを防ぐことはできますが、どうしてもタオルが汚れてしまいますよね。

月経カップがあれば、急いで更衣室まで走ることもなく、タオルを汚すこともありません。

特にレジャープールの場合はさまざまな種類のプールを行き来したり、水着のままプールサイドで休んだりすることが多いので月経カップの活躍が多いに期待できます。

④ 生理中でも好きなデザインの水着が着用できる。

タンポンのヒモが外に出ていないか気になる場合には、スパッツタイプのような丈のある水着を着用すればその心配を解消することができます。

しかし海水浴やリゾートでは、お気に入りのビキニなどの水着を堂々と着てあそびたいですよね。

月経カップであれば、生理中でも自分の好きな水着を、心置きなく着ることができます。

まとめ

今回は、生理中の水泳が身体的にも感染の危険性に対しても、医学上問題はないという判断が専門家によってなされていることをご紹介しました。 

また、生理中の水泳を快適にする対処法として月経カップをご紹介しましたが、カップ以外にも低容量ピルなどの対処法もあり、今後さらに生理ケアの選択肢は増えていくでしょう。

最近では、アスリート外来を開設する病院やクリニックが増えたり、多くのトップアスリートが生理についてオープンに発信することが増え、女性アスリートをとりまく環境が少しずつよい方向に変わってきています。

これからは、常に自分自身で正しい情報を受け取り、自分に適した対処法を選択していくことが、パフォーマンス向上のカギになると思います。

そして私たち大人は、女性の体や生理についての正しい知識に基づいて、10代の女子生徒、アスリートたちを正しい方向に導いてあげることが大切ですね。

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