月経カップがTSS(トキシックショック症候群)を引き起こす!?

*2024年10月28日更新

月経カップは、タンポンと比べてTSS(トキシックショック症候群)の危険性が低いことで知られていて、その理由のひとつは「素材の違い」だといわれています。タンポンは合成繊維などの繊維で作られていますが、主な月経カップは医療用シリコーンで作られています。

しかしながら、2020年1月20日「ル・パリジャン」紙に、月経カップによるTSSを発症し、両足と手の指関節を18個切断した女性の証言が掲載されました。

この女性は証言のなかで、「月経カップを何時間使用していたか覚えていない。月経カップは製品によって最長使用時間が異なるため、正しい知識を持たずに使っていた。」と話していたそうです。

また、2018年4月20日、月経カップがTSSを引き起こす可能性がより高いと主張する研究論文*を元にした記事がイギリスのDaily Mail Onlineにて配信されました。このことは世界中の月経カップユーザーに大きな衝撃を与え不安にさせました。

*Impact of currently marketed tampons and menstrual cups on Staphylococcus aureus growth and TSST-1 production in vitro. Appl. Environ. Microbiol. AEM.00351-18; Accepted manuscript posted online 20 April 2018

しかし、この論文をよく読んでみると、記事のタイトルとなっている「月経カップがTSSを引き起こす」ということを証明できる研究結果は示されていないことがわかります。

この研究は、単に「TSSを引き起こす危険性がないといわれる月経カップでさえも、正しく使わなければTSSを引き起こす可能性はゼロではないですよ」ということを伝えています。

ぜひみなさんにも正しく理解していただき、安心して月経カップを使っていただくために、こちらの記事をもとに説明したいと思います。

TSS(トキシックショック症候群)とは何?

月経カップとトキシックショック症候群について考える

TSSは、黄色ブドウ球菌の産生する毒素が原因で起こる急性疾患のことで、発症した人の約半分は合成繊維で作られているタンポンの使用によるものといわれていますが、さまざまな方法で男性にも女性にも発症する可能性があります。

黄色ブドウ球菌は、私たちの鼻腔、皮膚、口腔、咽頭、消化管、膣などに定着する常在菌です。健康な女性の腟内は、グラム陽性の乳酸桿菌(デーデルライン桿菌ともよぶ)によりpHが酸性に保たれることで、腟の自浄作用が働き、常在菌のバランスも保たれます。しかし、体調が悪いときや疲れているときには免疫機能が低下しているため通常より黄色ブドウ球菌が増殖し毒素が産生しやすくなり、TSSを引き起こすリスクが高まると考えられます。

TSSの主な症状

TSSの初期症状としては、突然の高熱を伴って発疹・発赤、倦怠感、嘔吐、下痢、粘膜充血などがあります。

このような症状があらわれた場合には、直ちに医療機関で治療を受けないと血圧低下などのショック症状に至り、場合によっては死に至ることや、四肢切断につながる可能性があります。

初期症状がインフルエンザとよく似ているため、早期の処置が遅れてしまい、それが致命傷となることもあります。

タンポン使用によるTSSのリスク

タンポンは数十年にわたりTSSの主な原因でしたが、1970年代にプロクター&ギャンブルが販売した超吸収型タンポンがTSS発症を劇的に増加させ、多くの死を招きました。このタンポンは市場からなくなりましたが、現在もタンポンによるTSSの発症は続いています。

タンポンを使用する際の注意点は、添付された説明書に従って使用すること、合成繊維で作られたもの、ダイオキシンを発生させる漂白で処理されたものを避けることです。

最近では、オーガニックタンポンがTSSを起こす可能性が低いと考えられることから人気が高まっています。

タンポン使用によるTSS症例の報告は大幅に減りましたが、ガイドラインに従わないユーザーにとっては、依然としてリスクは存在します。

引用:Centers for Disease Control and Prevention

月経カップは本当にTSSを引き起こすの?

月経カップの使用とTSSのリスクについて

一般的には、月経カップはTSSの発症のリスクはほぼないといわれてきましたが、最近の研究によると、カップもTSSにつながる可能性があることがわかってきました。

ただ、恐れないでください。この研究では、月経カップを使用した人のなかでTSSの症例を報告した人はたった2人だけでした。

カップの使用中にTSSを発症する可能性があることは認めますが、重要なことは、この2人のケースは、いずれもカップのメーカーが示している最長使用時間である10〜12時間をはるかに超えて、なんと7日間もカップを腟内に放置していたのです。

また、先日出回ったイギリスのDaily Mail Onlineなどから配信された記事は、フランスのClaude Bernard大学の調査を参考にされています。この研究は、腟内の環境(微生物叢)とは大きく異なるビニール袋の中で行なったin vitro(イン・ビトロ)の試験です。

彼らは月経カップが黄色ブドウ球菌(TSSの原因となる細菌)の産生を増加させる可能性が高いと主張していますが、この主張を世の中に発信する前に、さらなる多くの研究を行う必要があります。TSSの何千もの症例のうち、月経カップに関連する症例は2件しかないという事実を考えると、月経カップの快適性や利便性が優先されるべきだと思います。

世の中にあふれる衝撃的な記事の見出しを無視することは非常に難しいです。しかし、この研究の対象は人間ではなく、ビニール袋の中で行われたことを理解することが重要です。

どのような生理用品にも共通する最も重要なことは、それらを清潔に保つことです。また、決して長時間入れっぱなしにしないこと、信頼できるブランドの製品を使用することが大切です。

月経カップを安全に使うために

月経カップユーザーにとって、最長装着時間ごとにカップを取り出して、適切に洗浄することが非常に重要です。製品によって最長装着時間が異なるため、必ず説明書に記載している内容を確認してから使用してください。

以下は、日本で正式に販売されている月経カップのエヴァカップスーパージェニーディーバカップ、メルーナ、スクーンカップ、ロースカップの最長使用時間と素材についてまとめたものです。

月経カップの最長使用時間と素材

また、さらなる感染予防として、生理期間が終わったらカップを煮沸消毒することもおすすめしています。

万一、月経カップの取り出しを忘れて12時間以上装着してしまったらどうなるのでしょうか?取り出し忘れを経験したユーザーからは、「カップに溜まっていた経血がくさかった」「カップ自体ににおいがついてしまった」というくらいで、大きな問題は報告されていません。ただし、だからといって安心してはいけません。

みなさんは普段あまり意識しないかもしれませんが、タンポンも月経カップも日本では医療機器に属する製品です。

医療機器とは薬機法において、構造、使用方法、効果又は性能が明確に示されるものであって、「疾病の診断、治療、予防に使用されること」又は「身体の構造、機能に影響を及ぼすこと」のどちらかの目的に該当し、政令で定めるものとなっています。

したがって、タンポンや月経カップを使用する際には、添付文書に書かれた使用方法に従って、正しく使用することが自分の身体を守ることになります。

あらためてお伝えしますが、月経カップは、製品ごとに定めている使用時間ごとに必ず取り出して洗浄するようにしましょう。

最近では、月経カップの取り出し時間を通知してくれる、月経カップユーザーに最適な生理管理アプリ「Oh My Flow」もあります。ぜひこのようなツールを活用して、取り出し忘れを防止しましょう。

月経カップの「最長12時間装着可能」ってどういう意味?

月経カップの「最長12時間装着可能」ってどういう意味?

月経カップの装着時間はメーカーごとに異なりますが、インテグロで取り扱っているディーバカップ・エヴァカップ・スーパージェニーは「最長12時間」となっています。 この記事では、月経カップの使用可能な時間の考え方や、基本的なケア方法、タンポンとの違いなどについて、よくある質問とともにご紹介します。

月経カップを使って、より健康で快適に!

月経カップで快適に過ごす女性

 月経カップは、私たちの生理をより健康で快適に変えてくれます。

タンポンは経血だけでなく腟の自然な分泌物も吸収するため、腟の乾燥により自浄作用が低下したり、セックスのときのうるおい不足にもつながることがあります。

また、タンポンを出し入れする際の素材の摩擦により、腟管に微小な傷をつけることもあるともいわれています。一方の月経カップは、表面がツルツルしているため、カップ自体が腟を傷つけることはなく、生理の最初から最後まで快適に使えます。

この機会にぜひ、あなたの生理用品の選択肢のひとつにぜひ加えてみてはいかがでしょうか?

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